ライトニングウォレットにとって大きな課題の1つに「ユーザーにオンチェーンとライトニングの違いを意識させないこと」があります。普及が進むライトニングですが、未だ多くの場合ビットコイン支払いはオンチェーンで要求されます。ユーザーを混乱させないUXの開発を各社こぞって試みていますが、特にトラストレスな仕組みにこだわる場合はライトニングチャネルの開閉にオンチェーントランザクションが必要という原理的な垣根は大きいです。

著名な匿名ライトニング開発者であるZmnSCPxj氏が年初にメーリングリストに投稿していたSwap-in Potentiamというコンセプトは、まさにウォレットにとって難題であり続けるオンチェーンとライトニングの融合を推し進めるものです。

[Lightning-dev] Swap-in-Potentiam: Moving Onchain Funds “Instantly” To Lightning

モバイル環境でLSP利用が事実上必須なことを活用

モバイル環境のライトニングウォレットは常時起動していることが難しいため、特定のLSPを利用することが事実上必須になっています。一般的にLSPにはウォレット自体を提供するBreez、Muunなどが利用され、ユーザーが自身で好きなノードに対してチャネルを開設できないためウォレットを正常に利用できることはある程度これらの事業者に依存しています。

これを逆手に取ってオンチェーンのアドレスもLSPとの共同管理にしてしまえば安全にゼロ承認取引できるのではないか、というのがSwap-in Potentiamの出発点です。

例えば普段はライトニングを利用していないユーザーがライトニング払いをしてみたいとき、通常の流れはライトニングウォレットが生成するビットコインアドレスに入金し、トランザクションが承認されるとLSPとのチャネルが開設されるというものです。しかし、ウォレットが生成するビットコインアドレスがLSPとのマルチシグであれば、そのアドレスの資金を使ってチャネルを作成する際にLSPは安心してゼロ承認取引を認めることができます。なぜなら、ブロックチェーンに取り込まれる前に二重支払いするのにLSPの署名も必要になるためです。

LSPとのマルチシグ以外に数週間後にユーザーが単独で使用できる条件も加えることで、LSPが停止してしまっても資金が失われないようにできます。Blockstream Greenが似たような仕組みになっています。(そのかわり、LSP側がその気になればユーザーのオンチェーン資金を数週間凍結することはできてしまいます)

Blockstream Green: Simple and secure Bitcoin wallet
Blockstream Green makes it easy to get started sending and receiving Bitcoin and Liquid-based assets such as L-BTC and Tether’s USDt.

もちろんSwap-in Potentiamはライトニングウォレットでの利用を考慮しているので、オンチェーン送金以外にもアトミックスワップによるライトニングチャネルの残高調整(PeerSwap)ができるのが魅力です。アトミックスワップも通常はオンチェーンのセットアップが完了するまで安全に決済できないため、予めゼロ承認取引を行っても安全とわかっているアドレスからのアトミックスワップでは決済に必要な時間を限りなくゼロに近づけることができ、ライトニングと近い使用感を実現できます。

リモート(LSP)側からもバランスの調整に利用できる

Swap-in PotentiamではユーザーがLNでの受け取りに必要なチャネル内リモートバランスが枯渇しそうなときにLSP側から同じ理屈でSwapを実行できます。例えば将来的にライトニング支払いのオフライン受け取り(※)が可能になった場合などにLSPがユーザーに送金を取り次ぐ上で残高不足に気づき、ユーザーがオンラインに復帰する前に予めSwap-in Potentiam(前述のマルチシグ)に入金します。これでユーザーがオンラインに復帰した瞬間にSwapを実行し、ライトニングのトランザクションを取り次ぐことができます。

欠点はオンチェーン手数料

数週間のタイムロックが過ぎたあともSwap-in Potentiamを利用するには再び新たなSwap-in Potentiamへと入金する必要があり、繰り返しオンチェーンの手数料がかかってしまいます。1sat/vbyteなど非常に手数料が安価な時期であればそれほど大きな負担ではありませんが、Ordinal Inscriptionsの登場などで安いブロックスペースの需要が増大している現在、この手数料面でのトレードオフが比較的多きくなっているのが実情です。

高頻度にライトニングを利用するユーザーでなければUX面の改善で元を取れたと言えるかは微妙でしょう。特にそのようなアドバンスユーザーはビットコイン自体の制限を理解して納得して使っているユーザーが多く、それほどペインを感じていない可能性があります。

まとめ

・ライトニングウォレット内でチャネル内残高とオンチェーン残高の扱いが異なることがUX面の課題になっていて、統一した残高から両方の手段で支払うソリューションが求められている

・LSPを利用するモバイル型のライトニングウォレットにおいて、ユーザーはライトニングネットワークへの接続をLSPに頼っている

・LSPはゼロ承認取引でチャネルを開設させ送金させると資金盗難のリスクがある

・ライトニングウォレット内で生成されるオンチェーンアドレスを「LSPとユーザーのマルチシグ、または一定期間後ユーザー単独の鍵」で動かせるもの(Swap-in Potentiam)にするとゼロ承認取引のリスクがなくなる

・ユーザーからの送金以外にも、ユーザーへの送金を取り次ぐ上で将来的に便利かもしれない

・ただし、一定期間ごとにSwap-in Potentiamの更新が必要なため定期的にオンチェーン手数料がかかってしまう