「NFTブーム」の本当のイノベーションはインセンティブの操作にある
現在、NFTと呼ばれる種類のトークンの売買が流行しています。業界ぐるみで推されていることは東さんも指摘するとおりで、Winklevoss兄弟のGemini傘下のNifty Gateway、Opensea、Async Art、Cryptograph、Rarible、SuperRareなど様々なプラットフォームがNFTの発行や売買を扱っています。NFT自体は個人的には抵当権やエキゾチック・オプション、仕組み債のような個別に詳細が異なる金融商品として利用されていくのかなと思っていますが、現在の流行はどちらかというと2016年から存在するRare Pepeの流れを汲む「所有できる視覚コンテンツ」のようなものが主流です。
それにしても、NFTの歴史の文脈でCryptoKittiesの影響は必ず触れられる一方で、それに先立つRare Pepeが無視されがちなのは本稿で説明する通り、現在のNFTブームの本質はマネーゲームだからだと考えています。
さて、投機的価値に工夫が施されたNFTや新規性のあるNFTマーケットプレイスの例をいくつか見ていきましょう。
余談:NFTのデータはどこかにある
余談ですが1つだけ触れておきたいのは、NFTに付属する画像などのデータはNFT本体には含まれておらず、URLなどで指定される場所に保管されています。この仕組みはすなわちNFTの作成者がデータのAvailabilityに責任を持つということで、持続可能でもDecentralizedでもセキュアでもありません。この問題に関して、購入後は購入者が維持コストを払えて、かつ売買時の責任の移行も簡単にできるように、IPFSを用いて購入者がデータのAvailabilityに責任を持つモデルを推奨している事業者もいます。
IPFSとは分散型のストレージサービスで、参照時はファイルをハッシュ値で指定して取得するため、NFT所有者など「誰かが」ファイルを保管・配信するコストを負担している限りは生き続け、NFTに記載のデータ参照先も特定の所有者・管理者のいるURLと異なり変更する必要がありません。
売買金額の一部をクリエイターに還元
NFTのクリエイターが、二次市場での売買時にその売買金額の一部をロイヤルティーとして受け取れる機能をNFTに実装しているプラットフォームもあります。代表例はRaribleで、比率は自由に選択できます。(10%や20%に設定しているクリエイターが多いです)このような機能がある市場において、アーティストは売買されている限り半永久的に儲かるため、NFT作成のインセンティブが強まります。Raribleは作成自体も簡単なので、比較的クリエイターへの訴求をしているプラットフォームだと言えます。
アイデア自体は中古書籍の流通からも印税を徴収しようという形などで随分昔からあったものですが、スマートコントラクトを利用して簡単にやっていますね。
「入札者全員が得する」GBMオークション
Cryptographというプラットフォームは、GBMオークションという「次の入札者の入札金額の一部を、前の入札者がインセンティブとして受け取る」オークション方式をオンチェーンのスマートコントラクトに実装して使っています。
オンチェーンのオークションはガスの問題などから従来はダッチオークションがメインだったため、競り上がり式のオンチェーン・オークションは珍しいです。(CryptoKittiesなどはダッチオークションで売買されました)
また、Openseaのオークション方式は、オフチェーンでオーダーをマッチングしたあとにオンチェーンのコントラクトで決済しています。
これがどういうことかというと、入札する結果が「次の入札者が来て、自分は儲かる」か「落札できる」のどちらかになります。このオークション方式だと入札のチキンレース的な増加が期待でき、売り手も価格が釣り上がるため最終的に受け取る金額が落札額よりある程度少なくなっても元が取れる、ということです。MLMやアフィリエイトに似ていますね。また、マイナーがフロントランニングによってインセンティブをノーリスクで入手できないように、入札時のトランザクションで入札前の金額を指定させています。欲しい価格ではなく、インセンティブが入札の主要因になりやすいため適正価格を発見する機能があるかは疑わしいですが、投機的に盛り上がるという意味ではNFTマーケットのハックに向いているのではないでしょうか。
ちなみに「入札者全員が得する」というのはウソで、明らかに落札者がババを引いて必要以上の金額を支払うはめになっています。
ガバナンストークン
多くのNFT発行・売買プラットフォームがガバナンストークンを発行しています。Nifty Gatewayなどはガバナンストークンがありませんし、その他のプラットフォームも本当に必要なのかは別として、資金調達・ユーザーへのインセンティブなど何らかの理由で発行しています。
個別NFT事例:HASHMASKS
さて、本稿で紹介する今話題のNFTは2種類あり、1つ目はHashmasksと呼ばれるものです。これは16,384種類あるアバターで、背景や覆面など複数の要素を組み合わせたものです。世界中の70人以上のアーティストが作成したとされていますが、本当かは不明です。最初の販売方式はフェアなディストリビューションを目指すため、序盤は安く、徐々に値段が上がっていくガチャとして販売され、販売期間の終了後になってから購入したHashmaskの詳細がランダムに確定する方式でした。それぞれの特徴には希少性があり、誰も気づいていないが実は希少なものを血眼になって探している人達がいます。ここまで聞くとCryptoKittiesの増殖機能を省いたものに、希少性を求めて投機的価値がついているだけだと思うかもしれませんが、その通りです。ただ厳密には、Hashmasksにも独特な投機的側面があります。それぞれのHashmasksにはファンジブルなNCT (ネームチェンジトークン)というものが10年間を通して徐々に蓄積していき、これを半年分バーンすることでHashmaskの名前を変更することができます。NCTを単体で売買することもできるようなので、これ目当てで購入して寝かせようという人達もいるのかもしれません。
発行元は「最後のNCTがバーンされたときにHashmaskの名前が全て変更不可能になり、作品が完成する」と述べていますが、これもNCTの希少性を暗示しており、マネーゲームを煽っている側面が感じ取れると思います。
個別NFT事例:CRYPTOPUNKS
CryptoPunksはアクセサリーや人種など複数の要素を組み合わせたパンク風の24x24ピクセルのアバターで、合計で1万体あります。売買が盛り上がり値段が釣り上がったのは最近で、1億円以上で取引されたものもあります。2017年に無料で発行されたCryptoPunksは実はCryptoKittiesよりも数ヶ月前にでき、CryptoKittiesで使われるERC-721というイーサリアム上のNFT用の規格の誕生につながりました。つまりデジタル・コレクターズアイテムとして転換点だった、という点が注目の理由です。(冒頭で述べた通り、「イーサリアム初」ではなく「世界初」と表現されることが多いですが…)
CryptoPunksは特徴からして、いかにCryptoKittiesに影響を与えたかわかりますね。それでもCryptoKittiesが圧倒的に流行したのは2017年11月というリリースのタイミングに加えて、保有していると「妊娠・出産」を通して新しいCryptoKittiesを生成できるというマネーゲームの要素が大きかったのではないでしょうか。
余談2:取引履歴は信用できるのか?
さて、高額売買が話題となっているNFTですが、市場が小さいこともあって適正な価格発見を行うことが難しいです。そこで多くの場合判断材料にされているのは過去の取引履歴や類似のNFTの取引履歴ですが、これを判断材料とする際に注意点があります。現実世界のアート市場にも当てはまるかもしれませんが、高値での取引履歴を作るために作成者や所有者が自己売買を行って価格を釣り上げることが考えられ、実際に行われている場合もあります。取引時の手数料のみなので、本当に価値があるのか、また将来的にブームが去っても流動性があるのかなど考えておくほうが良いでしょう。もちろん単純に所有して満足できるのであれば関係ありませんが、大半の人は儲かりそうだからなだれ込んでいるということは意識しましょう。
まとめ
・現在流行しているNFT関連ではインセンティブを色々工夫していることが一番面白いのではないか・もし市場に参加するのであれば、マネーゲームとしての性質を必ず意識しよう
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