さて、ここ1週間~数日間、アメリカではトランプ支持者の議会乱入と暴動騒ぎ、それに端を発したFacebook,Twitter,Google, Amazonなどの巨大インターネット企業によるトランプ大統領のアカウント停止が非常に大きな物議をかもしています。これは言論や表現の自由や検閲耐性などを重視する海外のビットコインコミュニティでも当然大きなニュースになっており、それに対して色んな議論や反応が出ており、自分も非常に大きな意味を持ちえるニュースだと思っています。

起きたこと

あまり詳しくフォローしていない人もいると思うので起きたことを簡潔に説明します。1週間ほど前にトランプからバイデンへのアメリカ大統領の引継ぎの承認式のようなものが米議会であったようですが、この承認式に「選挙は不正」「トランプは負けていない」と主張する熱狂的なトランプ支持者が乱入。数人の死者も出す大珍事が起きました。そしてこの直接の原因になったのがトランプのSNS上などでの呼びかけであり、彼は暴動や混乱を扇動していて危険だ、という理由でTwitterやFacebookなどがトランプのアカウントを凍結。結局多くの主要インターネット上のサービスでトランプのアカウントは半永久的に凍結され、インターネット上からトランプが一日で消える事態になりました。トランプのアカウントを停止、禁止したのはFacebook、Twitter、Reddit、Youtubeなど主要なソーシャルメディア上で全てトランプの発言は消えさりました。また、トランプだけではなくトランプの弁護士、また議会に突入したとされる人たちのアカウントなども凍結されたようです。それに反応して、トランプ支持者たちは規制や検閲がより緩い「Parler」というSNSアプリを移動し始めたところ、何と今度はGoogle Play(Android)、Appstore(iOS)上からParlerのアプリが削除されてしまいます。さらにとどめとしてParlerがインフラとして利用していたAWSのクラウドサービスもAmazonから止められ、アプリのインストールが出来ないだけでなく、サービスの運用がそもそも出来なくなり、事実上Parlerは巨大テック企業の協力により一瞬で潰されてしまいました。


一連の事件で分かったことは何か?

今回の一連の事件はいわゆる識者と呼ばれる人の間でも意見が割れている中々複雑な問題だとは思います。トランプ大統領のアカウント停止などの動きを支持する人たちは、トランプが民衆を扇動して政治的に非常に危険な行動を促している、暴力や政治不安を広げるようなものは禁止されて当然だ、という見方をしています。また、確かにTwitterやFacebookなどは元々SNS上での発言へのPolicyを持っており、私企業ですのでその規約に違反する人は大統領であってもアクセスを遮断できる権利が企業にはある、という感じです。これは確かに一理あると思います。一方、検閲反対派は、言論の自由やインターネット企業の政治問題への中立性などを理由に、一連の動きを激しく批判しています。これはトランプを支持しているかどうかの問題ではなく、それ以上に個人の権利や国民の知る権利を制約することはあってはならない、という立場であったり、また巨大テック企業数社が協力すればアメリカ大統領ですらインターネット上からほとんど存在感を消せるという影響力に対しての懸念の声も上がっています。大部分の人はいまやインターネットを通して情報の多くに直接アクセスしているわけで、その情報のフローやデジタルサービスへのアクセスをアメリカの私企業数社が実質的にコントロールできるということに初めて衝撃を受けた人たちもいるようです。ちなみにこういう話はビットコイン界隈では以前から言われていることで、自分個人としては今さら驚きみたいな感じではなかったのですが、ただしここまで目立つ形で「インターネットやデジタル世界の支配者が誰か?」というのがスポットライトを浴びていることはやはり考えさせるものがあります。2020年の大きなテーマとしてコロナウイルスの拡散を防ぐための政府による私権の制約、ロックダウンの是非なども議論され、政府にそのような権威を許してしまうのは危険だ、という論調もありました。その点では武力や警察を持っている国家は物理的な身体的な世界で国民の行動や権利を制限する強い力を持っているわけですが、インターネット上ではむしろGAFAなどと呼ばれる企業たちの方が真の支配者であると言ってしまってもいいのではないでしょうか。当然そういう企業も政府による規制や管理の対象にはなりますが、FacebookのCambridge analyticaの事件で明るみになったように、政府やユーザーが感知しない間にユーザーの情報を悪用し、いわゆる世論の形成や選挙の結果も左右出来てしまう力を持っているのはものすごいことです。

ビットコインや仮想通貨などへの影響は?

さて、トランプ大統領の突然のインターネット世界からの消失は、アメリカ社会全体を巻き込む大きなニュースになっていますが、今後これはビットコインや仮想通貨、また分散型のサービスやソフトウェアの普及全般へも大きな影響、示唆があると思います。まず一つに今回の件を受けてすでにTwitterからMastdonなどの代替分散SNS移行を奨励する動きが起きており、集権的なSNSプラットフォームからより検閲が難しい分散型のSNSへの移行への追い風になっています。コロナがリモートワークなどを推進する大きな転換点となったのと同様に、今回の件でいよいよビットコインだけでなく他の分散ネットワークの利用も増して行く可能性はあります。Twitterの代替としてMastodon、Whatsappの代わりにSignalやKeybase(暗号メッセンジャー)、またYoutubeの代替的分散ソリューションなどもあるようです。ちなみにビットコインコミュニティでも今回の件を受けて、TwitterからMastodonに移動しろ!!とか言って、こちらのサイトからビットコイナー向けのコミュニティに参加できるようになっています(https://bitcoinhackers.org/)ビットコインは通貨発行や中央銀行を分散化する仕組みと見れますが、貨幣や通貨、お金の部分だけでなく、コミュニケーションやデータなども分散化、暗号化されるべきだと思いますし、その点ではそういう動きが本格化するのは好意的に捉えています。一方、このコラムを「邪悪なFacebook」で自分も投稿している通り、集権的なサービスの方が利用者や利便性が高いのも確かで、中々GAFAなどが提供するサービスを離れるのは難しいですし、この移行はビットコインよりさらに時間がかかる可能性が高そうです。(ビットコインには投機的側面があるので、それが新規のユーザーを引き付ける要素にはなっているが、その他の分散ネットワークはネットワーク効果と利便性、コストなどの勝負なのでさらに時間がかかりそう)もう一つは、いわゆる仮想通貨の集権的なプラットフォーム依存リスクが明確になったことです。イーサリアムやその他のブロックチェーンのインフラやノード部分がAWSなどに依存しているということは以前から指摘されていましたが、今回ParlerがAWSへのアクセスを遮断されて事実上サービス停止になったように、何かしらの政治的、もしくはビジネス的理由があればテック企業が本気を出せばAWSなどのクラウド依存をしているブロックチェーンを容易に止められることを証明してしまったわけです。つまり、仮想通貨というのは規制による利用禁止や過剰なAMLなどの政府などからのプレッシャーだけでなく、テック企業による検閲のリスクも真剣に考える必要があるわけです。ここら辺に関してはビットコイン関係開発者は以前からこのようなリスクを織り込んでおり、ノードの運用リソースの最小化、衛星からのブロックデータ受信などを通してロバストで検閲耐性を高める改善を重ねていますが、その他の仮想通貨やブロックチェーンはこの問題に本来もっと真剣に向き合うべきではないかと思います。

結論

日本ではあまり実感がない気もしますが、今回の一連の「トランプ消失事件」はビットコインや仮想通貨への示唆だけでなく、より広範な分散サービスへの移行トレンド、巨大テック企業への不信感などを加速させる可能性があります。ビットコインの次に何が来るか?という話もそろそろ考え始めている人もいると思いますが、脱GAFAやビットコインではないその他の分散ネットワークの興隆などが一つの面白いテーマになってくる可能性はありそうですね。