最近のUmbrelのアップデートでインストール可能なアプリが急速に増えました。その中にKrystal Bullという、DLC (Discreet Log Contract)と呼ばれるスマートコントラクトについて結果を発表するオラクルの役割を果たせるアプリがあり、久しぶりにDLCについて考えていました。

いわゆるブロックチェーン型DefiよりP2P型Defiに興味のある自分としてはDLCが活用されるようになっていくことに期待しています。

DLCがわからない方は2020年春に書かせていただいた「5分でわかるDiscreet Log Contracts」をご覧ください。

5分でわかるDiscreet Log Contracts
こんばんは。最近Discreet Log Contractsが話題に上ることが多いように思うので、どういうもので、どういう仕組みなのか、そしてどのようなものが実現できるのかを5分で理解できる記事を書いてみます。 DISCREET LOG CONTRACTSの狙い Discreet Log Contractsとは、2者間の、スケーラブルで、結果のデータを報告するオラクルに対するトラストを最小限にとどめた、プライベートなスマートコントラクトです。横文字が多いですが、オンチェーンでトラストレスに先物取引などを行うシンプルな仕組みです。 Discreet = 秘密を守る しばしば数学で登場するDiscrete(= 離散・離散的)とは違う単語です。 おおまかな仕組み

UMBREL APP STOREにKRYSTAL BULLが追加

簡単にノードを管理し、関連アプリをインストールできることでおなじみのUmbrel App Storeに最近、ビットコインCFDを提供するLNMarketsのアプリや直感的にウェブやIoTのプログラミングができるNode-REDなど、面白いアプリがいくつか追加されました。その中で特に自分の目を引いたのは、Krystal Bullというアプリです。

Krystal BullはDLCのオラクルになることができるアプリで、様々な事象について結果を配信することができます。例えばサッカーの代表戦で勝ったチームを報告したり、期日の大まかなビットコイン価格を報告できます。DLCの参加者はこの結果をもとにプールした資金を分配します。

通常のユーザーがUmbrelでオラクルをしても、そのオラクルが利用される可能性は非常に低いでしょう。そのオラクルが実際に期日まで生きていることや、正確なデータを配信すること、取引相手と結託しないことをトラストする必要があるからです。

したがってオラクルの役割は基本的にはDLCの参加者の双方にトラストされる取引所やデータ提供事業者が果たすと私は考えていますが、好きな期日に好きなデータを配信できるオラクルを簡単に立ち上げられるKrystal Bullは開発者ツールとしてや個人的な遊び、短期的な賭けなどに使うのにはピッタリですね。オラクルが実は賭けの相手のノードではないことを確認した上でですが。(笑)

SUREDBITSがCONTRACT TEMPLATESを公開

DLCのハードルは他にもあります。その1つはコントラクトごとに賭ける対象や期日が異なるため、コントラクト自体も異なる点です。賭けの相手がプロの事業者ならともかく、一般的なユーザー同士がP2Pで取引をする上でコントラクトを安全に生成することは非常に重要です。

DLCの開発に大きく貢献しているSuredbitsという会社があります。Suredbitsはウェブサイトに様々なオラクルの配信結果を掲載したり( https://oracle.suredbits.com/ )、開発者に便利なツールを公開しています。その中に2種類に分けられた多数のコントラクトのテンプレートがあります。

DLCによるコントラクトには結果が階級値になるものと結果が数値になるものがあります。それぞれの種類に対してサイト上で様々なコントラクト例が公開されており、数値型のコントラクトに関しては簡易的な損益曲線のようなものまで見ることができます。公開されているコントラクト自体も、ライトな開発経験さえあれば誰にでもコピペ+編集ができそうです。

DLCを試す開発者にとっても嬉しい機能ですが、ひょっとするとユーザーもこのようにコントラクトをコピペしたり、テンプレートをもとに自動生成するのが一般的になっていくのかもしれません。

結果が階級のコントラクト例一覧:https://oracle.suredbits.com/contract/enum

結果が数値のコントラクト例一覧:https://oracle.suredbits.com/contract/numeric

ATOMIC.FINANCEへの期待

DLCを用いたサービスを既に提供している事業者にAtomic.financeというものがあります。確か去年の今頃はインフルエンサー相手にDLCで大統領選の結果に賭けられるサービスをしていましたが、最近はビットコインホルダーがカバードコール戦略を取ってオプションプレミアムを得られるサービスを提供しています。例えば年末・10万ドルのコールオプションを売ることで年利換算で数%の手数料を得ることができます。(その代わり、年末に10万ドルを超えていた場合は超過分のビットコインは相手のものになります。)

よく巷でDefi on Bitcoinと呼ばれてはいますが、このサービス自体はノンカストディアルではあれどDefiではないでしょう。(DLCはDecentralizedに使えますが、Atomic.financeはユーザー・事業者間の相対取引です。)

日本居住者はビットコインのオプション取引(Deribit及びCME)に参加することができないため、DLCを使ったオプション取引には規制をくぐり抜ける大きな潜在需要が存在すると考えられます。ただし、Atomic.financeが規制によって日本居住者を除外させられるまでの話ですが…。

ここで話は私が期待しているP2P Financeの世界観につながります。

UMBRELがP2P DEFI (P2PFI)の成長を促すか

今年は「名ばかり分散(DINO)」しているDefiプロジェクトに対するSECの強硬姿勢もあり、ブロックチェーン型のDefiが規制でどう扱われるかという点に注目が集まっています。細かい論点には触れませんが、パブリックブロックチェーンに公開され、編集や更新の権限が放棄されたコントラクトを公開後に規制する方法が存在しないことは間違いないと思います。

一方で、ライトニングネットワークのようにすべてP2Pで完結するタイプのDefiも考えられます。そのうえでDLCのようなコントラクトをユーザー間で行うという、便宜上P2Pfiと呼ぶ形態を考えてみます。P2Pなので検閲耐性があるほか、ブロックチェーンに依存しないのでスケーラビリティにも優れています。(ただし当事者以外はコントラクトの存在や詳細を知らないので、インターオペラビリティに多少の難があります。)

P2Pfiにおいて、ユーザーが互いに直接取引することを規制することは非現実的です。世の中で友達同士が賭けをしたり、仮想通貨を売買するのに似ています。基本的に司法が介入することはできません。

一方で、利便性のために事業者がサービスを提供する場合も考えられます。例えば先述のAtomic.financeのようにオプション取引を提供する事業者です。多くの取引を扱う事業者であればよりタイトなスプレッドを提供することでユーザーの利益にもなります。このような主体は恐らく通常の事業者と同じく規制を遵守した上でサービスを提供することになるでしょう。規制面では現状と何も変わらないため、当局も比較的受け入れやすいはずです。

そしてそのような正規の事業者を利用してカバー取引をすることで、非正規の事業者も存在することができます。KYC不要などの価値の代わりに少しスプレッドが広いというような構造で、ユーザー・規制下の事業者・ヤミ事業者すべての存在がエコシステムの価値を高める形は、これぞネットワーク効果という形態ではないでしょうか。

個人的にはUmbrelの流行でビットコインの最も重要な「自分で簡単にノードが動かせる」という特長が活用されやすくなり、P2Pfiの時代が始まることに大きく期待しています。

半導体不足の影響でUmbrelの推奨機材であるRaspberry Pi 4が入手しづらいですが、Umbrelは通常のLinuxマシンにも入れられるので余っているPCがある人などはそういう方法もあります。