地域通貨が成功する条件
ちょうど2000年頃から日本各地で地域通貨は発行されました。それらの中にはある程度の成功がみられましたが、全体的にはうまくいかなかったという評価が多いと思います。あれから20年。ここ最近は地域限定トークンの発行などが言われており、地域通貨と同様な試みが再び盛り上がっています。そこで今回は2000年頃以降に発行されてきた地域通貨についてレビューし、その意義や問題点などを今一度点検しようと思います。特にアカデミックな文献を探してみようと思いました。
地域通貨とは
地域通貨というのは、文字通り、ある地域のみで通用する貨幣です。法定通貨との違い、発行主体は中央銀行や中央政府ではありません。たとえば、NPOや、商店街の有志ボランティアや、まれに地方自治体もあるようです。もちろん、現在ではもう少し違う状況でして、デジタル通貨の流通や地域トークンを発行するということになるのでしょう。文献によると、実働している地域通貨は2005年頃にビークをつけていました。300程度の通貨あったようです。

勘違いしないようにしておきたいのですが、地域通貨は「地域振興券」とは違います。1998年の緊急経済対策で打ち出された「地域振興券」というのは、15歳以下の児童のいる世帯、65歳以上の高齢者で一定の条件を満たす人のいる世帯に、一人当たり2万円の地域限定の商品券を配るというものでした。これはあまり効果が無かったといわれています。後の調査などによって明らかになったのは、地域振興券が使われても消費が増えていなかったということです。ざっくりというと、2万円分の振興券が使われると、その人の持っている現金(本来使用される予定だった)2万円が貯蓄にまわった、ということです。消費が喚起されたわけではないですね。しかも券は使えば消えてしまいます。それに対し、地域通貨は、地域内で使用しても消えるわけでなく地域内で留まるという点で違います。地域通貨をもらった人が別の機会に使えるということですね。
地域通貨の目的
日本以外では、1980年代から地域通貨が発行されていました。それらはある意味、反グローバリゼーションという思想が強いです。冷戦後、世界はアメリカ経済を中心としてグローバルな経済になりました。ヒト・モノ・カネが自由に動くようになり、大きな企業が出来るだけ安くて良いものを世界中から集めることができるようになったということです。その結果、日本の地方などは疲弊していったという考えがあります。
例えば、日本でも地域の商店街などで何かものを買うよりも、amazonなどで同じもの安く買えるなどできるようになりました。それは便利な反面、その地域から地域外へと貨幣が資産流出してしまうということです。人材もより高い待遇などを求めて移動するということです。このような状況の下で、地域のコミュニティや人のつながりを何とかしたいということで、自治体や様々なボランティアが活動していました。そのような活動と地域通貨発行は関連しています。
地域通貨が流通することで、地域の中にお金が滞留するといわれています。この概念を説明する一例として新潟産業大学の研究を見つけました。新潟県柏崎市には米(コメ)本位制に基づく地域通貨「風輪通貨(ふうりんつうか)」というものがあり、1風(フォン)=1日本円のレートだそうです。被験者にインターネット販売と地元商店での購入で選択させるということを実験しました。ただし、被験者である消費者自身もまた地元で商売をしている地域住民であるという設定で行います。地域内での通貨の流通をみたいという仮想実験のようなものですね。価格面でインターネット販売が優位であるという条件の下であったとしても、地域通貨を用いることで、地域の商店で購入するようになることをゲーム理論的に説明しています。
一方で、地域の中でちょっとしたサービスなどを提供して、地域内の相互扶助関係に対する対価を支払おうという発想もあります。簡単に言えば、助け合いを実践した人に地域通貨をあげるということで、全体的に地域のつながりを強くしようということです。ふれあい通貨というようなものもこのタイプです。そしてたまった地域通貨を、今度は自分が必要になったときなどで利用します。世の中の常ですが、必ずしもみんな仲良しというわけではありません。バラバラな個として人間が一つにまとまるという意味で地域通貨は役立つのではないかという仮説があるわけです。このような考え方は単に地域経済活性化を目的にしたものではなく、地域のつながりの再構築として使用するというものです。
現在発行されているデジタル地域通貨・トークンは、これらの地域経済活性化か、相互扶助型かのいずれかに対応するものとは限らないかもしれません。しかし、これらの2タイプに当てはまるのであれば、過去の研究などの知見がそのまま当てはまるかもしれません。
都市部・地方部での成功条件
地域通貨の成功の定義は、年間の流通量が安定していることや、取引数が一定以上であることなどを達成するなどの条件とする考えがあります。これであれば、確かに流通しているということになります。貨幣というのは貨幣として流通してなければならないという立場であれば、この成功の定義は確かに正しいでしょう。でもそれでどの程度の水準を定めればよいのかというのは、なかなか決められません。成功の定義自体は難しい問題だとされます。
そのような難しさがありながら、地域通貨が成功するにはどのようにすればよいかという成功条件については、すでに色々な考察がなされています。社会科学系の分野ではメジャーな問題設定なのかもしれません。全部を網羅できないですが、全体を俯瞰すると成功するものは少ないのかと思われます。その中でも比較的に流通するものについての特徴が考察がされているようです。
関西大学の研究では、全国から20の地域通貨について、成功の条件を解析しました。都市部(1次産業構成率1%未満)であり、商店などで利用可能なタイプは成功例があるということのようです。考察によると、さらに2通りに分けられるようです。一つは、地域経済の活性化です。これは特に若い年代が多い地域で、商店などで利用するようなものです。もう一つは、全国平均より高齢者が多い地域で、1次産業が多くなく、比較的豊かな地域でも利用です。この場合はどちらかというと相互扶助型として利用されるようですね。ありがとうの通貨のようなものを渡すなどして、それを商店で利用できるようです。
非都市部でも相互扶助ボランティア型が良いようなのですが、商店で使用することはあまり想定する必要がないようです。前述のふれあい切符のように貯めて置いて後で自分や家族が必要になったときに使うものですね。現金をお礼として渡すのは生々しいですが、地域通貨だと渡しやすい・受け取りやすいという考え方があるようです。ただし、地域のつながりが元々強い地域では、相互扶助ボランティア型の地域通貨がかえって流通しないということがあるようです。この場合は通貨が流通していなくても別の意味で成功といえるでしょう。
さて、最近のデジタル地域トークンの成功条件を考えたいのであれば、おおよそ以上の議論をなぞる形になるのではないかと思います。もちろん上の議論に当てはまらないトークンエコノミーを想定している場合もあるのかもしれませんが、それはまたそれぞれ個別に考えていけばよいと思います。私見ですが、都市・地方問わず、高齢者などが使いやすいトークンというものが実現されなければ、なかなかボランティア型は難しいのかと思います。これまでの相互扶助型の地域通貨は紙など通常の現金に近い形態で発行されることが多いようです。一方で、都市部における地域経済活性型については、デジタル通貨と現金を混ぜて決済できるなどの条件が整えば成功する可能性があるかもしれません。
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