プライバシー機能はマイニングの分散化につながるのか?UTXO Dealership
マイニングの中央集権化とそれがもたらすリスクは非常に長い間議論の対象になっています。現在の理解をまとめると、マイナーが自由にマイニングプールを切り替えることができる限りはビットコインに対する影響力は限られていますが、マイニングプール同士の競争によって囲い込みのインセンティブが存在するため今後も切り替える選択が容易であり続けるとは限りません。
特に、特定のマイニングプールの収益性が群を抜いて高い場合は多少問題があってもマイナーにとってはそこにハッシュレートを売却し続ける動機があります。MEVというマイニングの副収入によってマイニングプールの中央集権化が進む可能性については最近の記事で取り上げました。
ところがThe Atlanta Bitcoin Conference (tabconf)というビットコインの技術についてのカンファレンスで開催されたハッカソンで発表された"UTXO Dealership"というコンセプトはこの性質を逆手に取って大手マイニングプールの優位を崩す可能性があるアイデアで、非常に面白いものでした。
ビットコインユーザーがプライバシーをマイナーから「購入」することができるUTXO Dealershipはどのようにマイニングを変える可能性があるのか解説します。
・マイニングプールにKYC必須化とコンプライアンス重視の流れがある
・UTXO Dealershipは取引履歴で色の付いたUTXOと、マイナーが得る採掘報酬から生まれる新しいUTXOをオフチェーンで交換するプライバシー購入スキーム
・プライバシー機能を提供するマイニングプールに追加収益をもたらす
・規制対応した大手プール数社 vs 規制外の匿名プール数社、どちらが好ましい?
マイニングプールにKYC必須化の波
現在ビットコインのマイニングプールは大手2社がハッシュレートの50%以上を集めているという寡占状況にあります。

Foundry USAはその名の通りアメリカのマイニングプールで、2021年に中国からマイナーが米国やカナダを始めとする他国へ流出した際に大きくシェアを伸ばしました。マイナーに対してマイニング機材(ASIC)を購入する費用を一部貸し付けたり、リモートでマイニング施設の稼働状況モニタリングができるモバイルアプリの提供などで差別化しています。特にテキサスの印象が強い余剰自然エネルギーやストランデッドガス田等でのマイニングを行う事業者に好まれている印象があります。個人では参加できないようです。
2位のAntpoolはASIC製造大手のBitmain社が運営するマイニングプールで老舗の無類に入ります。昔から競争力のあるマイニングプールとして人気を保っており、中国系のマイナーを中心に利用されているような印象があります。
さて、このトップ2のマイニングプールはどちらも参加するのにKYCを必須化しています。Foundry USA Poolに参加したい企業はコンプライアンス面でチェックを受けます。ウェブサイトによると:
Setting new standards of professionalism, Foundry takes on the risks associated with mining through our FPPS payout model, SOC compliance, and KYC of our pool members, providing a trusted space for miners to operate within.
また、Antpoolも今年の夏にKYCの導入を開始しました。2021年から中国IPのブロックに加えてKYC導入を予定しているという声明は出していたため、中国政府から圧力がかかっているのかもしれません。
米国と中国という2つの異なる政府の影響下にあるこれらのプールが協力して非採算的な51%攻撃を行う未来はあまり現実的には思えませんが、規制コンプライアンス、つまり政府の影響力が強いマイニングプールが伸長していることは機になります。
必ずしも法的な根拠があるとは限らない自主規制なのもタチが悪いですね。
UTXO DealershipはUTXOの乗り換え
UTXO Dealershipとは、UTXOを売りたい人と買いたい人が第三者にわからないようにそれらを交換するというプライバシープロトコルです。
実はUTXO自体の所有権を交換するわけではなく、そのUTXOを使って条件付きの支払いを互いに実行するプロトコルです。オフチェーンで秘密情報を共有することで買い手・売り手が互いにアトミックに送金し合えるため、トラストは最小化されています。(片方だけが資金を受け取れる状況はない)
具体的には:
売り手のUTXO→条件付きで買い手が使用できるUTXO→買い手のウォレット
買い手のUTXO→条件付きで売り手が使用できるUTXO→売り手のウォレット
というようにいくつかのトランザクションをつなげ、真ん中のUTXOを使用する条件は同一の秘密情報に由来します。この方法はGregory Maxwellが考案したCoinswapsというもので、秘密情報はオフチェーンで共有されるため第三者には2つのトランザクションの関連性が全くわからず、単純なTaproot spendに見えます。
ただし、事後的に取引相手がトランザクションの関連性を開示してしまわないことに関してはトラストが必要です。
このようにして、たくさんの来歴があるUTXOを相手に送り、きれいなUTXOに交換してもらえるというのがプライバシー面でのメリットになります。
プレゼンテーションではマイナーが新しく作成するブロックのコインベースTX (報酬TX)由来のUTXOを売ることを念頭に発表されていますが、原理的にはいかなるUTXOでも売ることが可能です。また、マイナー以外がUTXOを売ることもできますが、マイナーは買い取ったUTXOを後に自身への手数料として消費し再生させる特技を持っています。
ちなみにUTXO DealershipというネーミングはUTXOを乗り換えたいときに訪れる中古車屋さん (ディーラー)から来ているようです。
マイニングの非中央集権化にとってプラス?
月初に配信された記事で取り上げたMEVと同じく、UTXO Dealershipの利用が十分に存在すればマイナーにとって追加収益をあげる方法となり得ます。また、面白いのは「コンプライアンスを意識した自主規制」を前提とすると手を出しにくいプライバシー系のサービスであるという点が挙げられます。
なぜならば、仮にUTXO Dealershipでミキサーや犯罪由来のUTXOを買い取ったプールは資金洗浄の疑いをかけられる可能性があるためです。このようなマイニングプールは買い取れるUTXOに一定の基準を設けるでしょう。
したがって、競争原理的にはそれ以外の(規制外の)マイニングプールの収益性が向上し、ハッシュレートはそちらに移動する可能性があります。すると面白いことにマイニングプールに対する規制の影響力が低下するかもしれません。
仮にこれが実現し、Foundry USAやAntpoolがシェアを失い、AMLリスクに物怖じしないマイニングプール数社の寡占になったとしましょう。果たしてこれはどれくらいビットコインマイニングの分散化に貢献するでしょうか?
表面的にはアメリカや中国政府がマイニングプールに加えられる圧力が減ったように考えられるかもしれません。しかし、匿名のプールに実は政府機関の息がかかっているかもしれず(ミキシングサービスにはハニーポットとされるものもあります)、またアメリカや中国は世界中で影響力を発揮することができるため運営者は相当なリスクを負うでしょう。マネロンとしての利用が増加すること自体がビットコインに対する規制リスクにもなり得ます。
現在のマイニングプールの寡占は好ましくないですが、仮にそれを匿名のマイニングプールが置き換えると改善するとは言い切れないのではないでしょうか。
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