BlockstreamのLiquidはなぜユーザーが少ないのか
Blockstreamが開発したビットコイン・サイドチェーンのLiquidがなぜ鳴かず飛ばずなのかは多くの人が疑問に感じているところかと思います。むしろ、最近ビットコインに興味を持ったという方は聞いたことすら無いかもしれません。(FTX JPになったLiquid by Quoineのことではありません)Liquidには2022年8月現在でおよそ3500BTCが保管されておりますが、1分間隔で生成されるブロックはガラガラで、コインベーストランザクションを除くと平均0.5tx/分という有様です。比較対象として、この24時間のデータからBitcoinでは~175tx/分、Bitcoin Cashでは~23tx/分、Litecoinでは~72tx/分、Dogecoinでは27tx/分なので、いかに使われていないかわかります。特にBlockstream発のプロダクトにはLiquid対応しているものも多く、最近紹介したPeerSwapでもL-BTCとビットコイン・ブロックチェーン上のライトニングチャネルの残高を交換できる機能が用意されるなどしています。そんなLiquidが鳴かず飛ばずな理由を考えてみました。
LIQUIDはフェデレーションをトラストするサイドチェーン
Liquidはフェデレーション型のサイドチェーンで、Liquidフェデレーションという企業連合のメンバーによってブロックが生成されています。フェデレーションに参加するにはフェデレーションのメンバーの投票が必要とのことですが、それ以外にもブロック生成に用いるHSMの提供など事実上の拒否権を意味するプロセスがあるかもしれません。
また、プロダクトの開発自体はBlockstreamが主導しており、フェデレーションのメンバー企業がコードの監査や提案を行っている場合もあるかもしれませんが、プロジェクト全体としてはBlockstreamの影響力が一番大きいです。BTCをLiquid上のL-BTCとして使えるようにフェデレーションのマルチシグに送る「ペグイン」は誰でもできます、L-BTCを返還してBTCを取り戻す「ペグアウト」はフェデレーションメンバーにしかできず、そのときにブロック生成を担っているメンバーの3分の2より1つ多い数のメンバーの合意が必要です。従来は11-of-15のマルチシグでしたが、現在はDynaFedというフェデレーションのメンバーが動的に入れ替わる方式を採用しているのでこの数も変動するかもしれません。なお、ブロック生成はパーミッションが必要ですが、Liquidノードを動かして入出金やトランザクションを検証することは誰にでもできます。本稿でよく触れるライトニングノード管理ソフトのUmbrelにもLiquidノードのアプリが登場しました。以上のことから、LiquidにBTCを預ける=Liquidフェデレーションにビットコインを預ける、ということになります。Liquidが流行らない1つ目の理由として、ビットコインユーザーにこのセキュリティモデルがウケないという理由が考えられそうです。
ちなみにBlockstreamが緊急時のユーザー資産保全用に保有している(この事実も非公表だった)2-of-3鍵の使用がバグによってブロック生成に千回以上も必要になっていたということが2020年6月に発覚した事案や、2021年10月にブロック生成が止まって22時間使えなかった事案が話題になるなど、それほど使用されていない割にトラストするのに足る透明性や信頼性を提供できていない点も厳しく見られているでしょう。
ペグインはサイドチェーン側でビットコインの入金が検証できれば簡単にトラストレス&パーミッションレスにできますが、ビットコインのスクリプトで表現できることが非常に限られることからペグアウトをトラストレス・パーミッションレスに行う方法が長く問題となってきました。この実現方法は例えばマイナーの長期間の承認をもってやっとペグアウトできるDrivechainsなどとして提案されています。
また、逆にone-way peg (ペグアウトしてBTCに戻すことができないサイドチェーン)というようなアイデアも存在しますが、BTCは貴重なので恐らく使われないでしょう。
他にも最近ホットな話題としてはFederated Chaumian Mintsというものがあり、Fedimintというプロジェクトが(やはりBlockstreamの協力を受けて) 実装例を開発しています。これもBTCをフェデレーションがカストディするモデルですがサイドチェーンを持たず、ユーザー間のプライバシーを重視しています。異なるフェデレーション間のトークンには互換性がなく、ネットワーク効果で大金を扱うFederated Mintが現れるとシステミックリスクが高まるので、フェデレーションでライトニングノードを運用し別のMintやライトニングユーザーとのやり取りができるように仕様を定める予定のようです。

プライバシー面は優れている、が…
Liquidは送金する金額とアセットの種類(Liquid上ではBitcoinとは異なり、L-BTC以外にも暗号資産を発行できる) について、これらの情報がトランザクションでは秘匿されます。BlockstreamはLiquidの価値提案としてアセット発行機能と送金内容の秘匿機能を中心に据えているところがあります。特に最近は規制に対応した証券トークンの発行や取引といったものをLiquidのユースケースとして売り込んでおり、金融のユースケースに取引内容や金額のプライバシーという機能は非常に合致していますが、同時に流動性にもネットワーク効果があるため通常の証券市場ではなくあえてLiquidを使うという選択はなかなか正当化しづらいでしょう。規制対応証券トークンという市場もまだ非常に小さいため、現時点ではBlockstream自身によるマイニング受益権証券(Bitcoin Mining Note)を含めて発行例が数件に留まっています。ところが、プライバシーの大きな側面としてAnonymity Setの概念があります。前にも本稿で触れましたが、木を隠すなら森の中なので、例えば木(ユーザー) が数十人しかいないサバンナでのプライバシーは非常に脆弱なものになってしまいます。プライバシー面でのメリットが活きてくるにはまずアクティビティが必要なのです。またLiquid自体のネットワーク効果の問題はプライバシーに限りません。L-BTCやL-USDTを扱う事業者やユーザーがほとんど存在しない以上、普通にBTCや他チェーンを使うほうが合理的なのです。つまり、ネットワーク効果が発生するに至っておらず、プライバシーを含めて使う意味がないのです。
長い目で見て存在し続けるのか?
また、Liquid上でプロダクトを開発するという視点からは、長期的にLiquidがどう変わっていくのか予想する必要がありますが、これも思いの外困難です。例えば推されるユースケースもステーブルコインや汎用トークンの発行からゲーム内資産の発行、証券トークン向けのホワイトリスト機能の提供など年々推移してきました。次は何でしょう?もしフィットするユースケースが見つかった場合、それに特化するのがLiquidやBlockstreamにとって得策なのではないかという問題もあります。何年もかけてゆっくりと変化していくビットコインとは異なり、LiquidはBlockstreamのプロダクトなので長い目で見るとビットコインには存在しない機能の追加などで目的に合わせて分化していき、互換性が低下する可能性さえあります。少なくともビットコインを使ったプロダクト開発よりも不確実性が高いと言えるでしょう。(もちろん逆に競合が少なく、Blockstreamの方針に影響力を持ちやすいという反対意見もありかもしれません)
ちなみに私はイーサリアムのスケーリングソリューションとして近頃取り上げられることの多いRollupもこの問題に直面すると考えています。なぜなら、ユーザーやDappsを囲い込んでより活発なサイドチェーンを作る競争になっていきやすいためです。
まとめ
私の意見ではありますが、Liquidがなかなかユーザーを獲得できない理由として
・カストディに近いトラストモデルがビットコインユーザーに受け入れられ難い
・プライバシー、流動性などネットワーク効果に達しておらず役に立たない
・長期的な方向性や持続可能性がわからない
ということになります。かなり厳しい指摘かもしれませんが、ここ数年はノンカストディアルにこだわるよりも「ベターなカストディアル」やフェデレーション型のソリューションが見直されてきているので、LiquidやFedimintで行われる実験がこの分野に貢献してくれることに期待しています。
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