オンチェーンの送金手数料がさらに安くなった理由とその影響は?
最近mempool.spaceをご覧になった方は気づいているかもしれませんが、ビットコインの手数料相場がこれまでより1桁安くなっていることが出てきました。従来であればトランザクション手数料の下限は1 sat/vbyteだったので、どれだけトランザクション需要が少ないタイミングでもそれだけ手数料を払う必要がありました。しかし、最近では0.1 sat/vbyteのトランザクションすら見られます!
今日はこの変更がどういう経緯で行われたのか、そしてどういう影響が見込まれるかを解説します。
・Bitcoin Core 30において規定値が変更予定。それに先立ち対応するマイナーも
・1 sat/vbyteが手数料相場の「下限」だった理由と、制限緩和のメリットデメリット
・前もって対応しているマイナーは損をしているのではないか?
Bitcoin Core 30において規定値が変更予定。それに先立ち対応するマイナーも
10月にリリースが予定されているBitcoin Core 30をめぐる議論はこれまでOP_Returnの上限解放に関するものがほとんどで、本稿でも取り上げていました。
しかし、Bitcoin Core 30で導入されるトランザクションリレーポリシーへの変更はそれだけではありません。これまで、手数料が1 sat/vbyte未満のトランザクションはビットコインのP2Pネットワークで伝播されないためマイナーにたどり着けず、そのようなトランザクションをブロックに含めたいユーザーはマイナーに直接提出して別の方法で手数料を支払うほかありませんでした。Bitcoin Core 30からはビットコインの価格上昇を根拠にこの下限が0.1 sat/vbyteまで引き下げられます。
実は既に1 sat/vbyte未満のトランザクションがマイナーのノードまでたどり着く可能性はそこそこ高くなっています。Bitcoin Coreの設定を変更しているユーザーも少し存在するかもしれませんが、最も影響しているのはLibre Relayと呼ばれるBitcoin Coreフォークの存在でしょう。
Ocean・Bitcoin Knotsがやろうとしている決済用途以外のフィルタリングに対抗して、Libre Relayはいわゆる標準トランザクション以外のトランザクションもすべてリレーするという方針になっており、非常に少数(高々数十ノード?)でも高い確率で0.1 sat/vbyteのトランザクションをネットワークの大部分に届けることができます。
もちろんマイナーのノードも対応していなければ受け取ることはできませんが、すでに多くのマイニングプールが対応しており、従来のリレーポリシーだと採掘されなかった可能性が高いトランザクションがブロックに含まれやすくなっています。
1 sat/vbyteが手数料相場の「下限」だった理由と、制限緩和のメリットデメリット
元々このリレーポリシーの制限はP2Pネットワークを「スパムトランザクション」が流れないようにするためでした。ブロックチェーンにデータを記録する目的のスパムではなく、ビットコインノードやP2Pネットワークを輻輳させることを目的としたスパムの話です。
仮にもし手数料が0 sat/vbyteのトランザクションも伝播させられるとなると、「自分自身に送金するトランザクション」を無限に作ってノーコストでビットコインのP2Pネットワークに流すことができてしまいます。おびただしい量のトランザクションを流すことでビットコインノードを機能停止に追い込み、ビットコインを使えなくする攻撃が考えられます。それを防ぐために1 sat/vbyteという下限はありました。その結果として、"dust limit"という概念も存在します。
一般的なトランザクションだとUTXOは546 sat以上の金額でなければリレーされません(特殊な例外を除く)。
今回の緩和は、ビットコイン価格の上昇によって0.1 sat/vbyteに引き下げても問題ないという理由です。確かに、ビットコインのP2Pネットワークにトランザクションを流す行為自体にビットコイン建ての報酬があるわけではないので、価格上昇に伴って削減しても大きな問題はなさそうです。
緩和の結果として、いくつかメリット・デメリットが考えられます。
メリット
・低手数料時にさらに手数料が節約できる。ライトニングノードの運用や、Arkのように強制決済時に多数のオンチェーントランザクションが発生するようなプロトコル、大量のUTXOを手数料が安いときにコンソリデーションする取引所等にとっては手数料の大幅な削減になる。
・低手数料時の手数料推定の粒度向上。手数料率を整数で指定すると例えば1 sat/vbyteが適当なのか2 sat/vbyteが適当なのか判断が難しいが、小数でより正確に指定するユーザーが増えれば1.4 sat/vbyteや0.7 sat/vbyteなど有効数字が増えて手数料推定の有効性が増す。
デメリット
・マイニング報酬の削減。最低料金が10分の1になるので、ブロックが満杯にならないときは理屈の上ではマイナーが得る送金手数料は1/10になる。ただし、手数料相場が1 sat/vbyteに張り付いているときは元々手数料が占める割合は微々たるもので、あくまで収入の主体はビットコインの新規発行である。
・スパムでP2Pネットワークを輻輳させるコストが低下する。ただし、そのためには大量のトランザクションが必要なので準備費用はやはりある程度かかる。また、もし問題が起これば多くのノードが再び1 sat/vbyteを必須条件に設定するだけだと考えられる。
前もって対応しているマイナーは損をしているのではないか?
今回のポリシー変更が規定値となるのは10月にリリースされるBitcoin Core 30からであるにも関わらず、大手のマイニングプールは続々と0.1 sat/vbyteのトランザクションにも対応しています。現在はトランザクション需要が少ないので、先述した通りこの変更によってマイナーが得られるトランザクション手数料はむしろ減少していると考えられますが、なぜ多くのプールが早期に対応を決めたのでしょうか?
1つの意見としてよく見るのはオーファンブロックの生成を防ぐためというものです。オーファンブロックというのは、マイニングのタイミングがかぶってチェーンが一時的に分岐(最新の正常なブロックが2つある)したのちに、「正統派から外れたブロック(その後に採掘を続けてもらえなかったブロック)」のことを言います。ビットコインにおいてはオーファンブロックは報酬も結果的に一切もらえないため、採掘したブロックがオーファンになってしまうと単純に損です。
一時的な分岐はタイミングの問題で発生しますが、オーファンブロックはその後に採掘を続けてもらえない原因がある場合もあります。例えば特定のマイニングプールが認めないトランザクションが含まれているような場合です。しかし、0.1 sat/vbyteのトランザクション手数料率は別にコンセンサス違反ではないのでそれを理由に採掘を続けてもらえないことはなく、個人的にはこの意見は腑に落ちません。
より重要なのはおそらく10月に入ってBitcoin Core 30のノードが増えてきたときに未対応だと「1 sat/vbyte未満のトランザクションを取り逃がす」ケースが出てきてしまい、1 sat/vbyte以上のトランザクションだけでブロックが埋まらない場合は収益性に差が出る可能性があることではないでしょうか。
むしろ早期に対応しておくことで、怠惰な競合と比べて(微々たる額かもしれませんが)10月を待たずともより多くの採掘手数料を得られるかもしれません。ほかのプールが対応したり、ウォレットが対応したり、ノード運用者が対応することによって普及が前倒しになることもありえるためです。
まとめ
・10月リリースのBitcoin Core 30からトランザクションリレーポリシーの最低手数料率の既定値が0.1 sat/vbyteになるのを前に、マイニングプールがどんどん対応を進めている
・プールの視点では最低手数料が1/10まで低下し、平均の手数料収入は下がってしまう可能性はあるが、従来基準のトランザクションでブロックが埋まらない状況でトランザクションを取り逃がすよりはマシだから早期対応していると考えられる
・ユーザーの視点では手数料が安くなったり手数料推定の改善といったメリットがあるため使うインセンティブがあるが、対応ウォレットはまだ少ない
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