みなさん、あけましておめでとうございます。年末年始はいかがお過ごしでしょうか。私はこの時期になると、普段より落ち着いてビットコインの大局を考える余裕が出てきます。一年間で書いた記事を振り返ると、相変わらずいろんな話題が出た一年でした。

2025年のビットコインは個人的には価値の低い「ノイズ」のような議論が目立ち、長期的に重要な「シグナル」とも呼ぶべき議論はいつも以上に注目されにくかった年でした。また、世の中のビットコインに対する認知は主にトレジャリー企業を通して拡大しましたが、それがどれくらいビットコインにとって良いことだったのかは今後明らかになるでしょう。

また、今後重要になってくる「ビットコインを使う・稼ぐ」というテーマにおいては、SparkがWallet of Satoshiをはじめとする様々なウォレットに搭載され、セルフカストディ型のライトニング決済を普及させようとしています。その一方で、Sparkの方向性や仕組みに違和感を感じる部分があるのも事実です。

今日の記事は、毎年やっている振り返り回として、ビットコインにとっての2025年を総括してみようと思います。

・重要な議論をかき消す勢いだった、不毛な技術論争

・前半のトレジャリー企業の大躍進が、後半になって重しに

・ライトニングウォレットの仕組みとしてSparkの導入が急速に広がる

重要な議論をかき消す勢いだった、不毛な技術論争

まず、2025年で一番印象的だったのはいわゆるKnots論争です。

本稿でも紹介した通り、背景としてはOrdinals Inscriptionsなどビットコインに直接データを書き込むユースケースを「スパム」と見なし嫌うビットコイナーは少なくなく、2023年の暮れにローンチしたマイニングプール「Ocean」はそのたぐいのトランザクションをあえて検閲するというアプローチが物議を醸していました。

マイニングプールによる検閲の影響力をおさらいする
ここ最近マイニングプールによる検閲が熱いトピックとなっています。9-10月にかけて業界3番手のマイニングプールであるF2PoolがOFAC規制に基づき制裁対象となっているアドレスからのトランザクションを意図的に含めていなかったことをリサーチャーの0xB10C氏が検知し公表しました。 Bitcoin’s Anti-Censorship Ethos Surfaces After Mining Pool F2Pool Acknowledges ’Filter’After a blockchain sleuth reported that the Bitcoin mining pool may have censored a transaction from an address blacklisted by U.S. authorities, critics responded, and so did the project’s co-founder.CoinDeskBradley Keoun 0xB10C氏はminingpool.observerという検閲検知ソフトを公開しています。

Oceanは少しずつ順調にシェアを伸ばしていたのですが、2025年の春にBitcoin CoreがOP_Returnという手法でデータを書き込むトランザクションをマイナーに届けやすくする変更を行うことになりました。コミュニティ内で意見が分かれているにも関わらず強行したことで、OceanのトップであるLuke Dashjrが以前より保守しているBitcoin CoreのフォークであるBitcoin Knotsというソフトの使用を呼びかけ、議論が一気にヒートアップしました。

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Bitcoin Knotsはビットコインのコンセンサスルールに従うため、ブロックチェーンをフォークするものではありません。あくまで、コンセンサス以外の部分でBitcoin Coreと少し異なる実装です。(トランザクションの伝播に関するルールなど)

本稿でも解説しましたが、Bitcoin Coreの「メモリプールポリシーを緩和する方針」とはノードのリレーポリシーを実際にマイニングされる内容に合わせる方向の変更であり、むしろここが一致しないために発生する様々な弊害を解消することが目的です。ノードごとの見通しを実態に近づけることは、通常のビットコインユーザーにも、Arkなどのレイヤー2にとってもビットコインが使いやすくなる影響があります。

OP_Return戦争再び:ブロックチェーンにデータを刻む機能について再燃する議論
今週、ビットコイン関係のツイッターがある話題で持ちきりになっています。GitHubのBitcoin CoreリポジトリにPeter Todd氏が提出した以下のプルリクエストです。 Remove arbitrary limits on OP_Return (datacarrier) outputs by petertodd · Pull Request #32359 · bitcoin/bitcoinAs per recent bitcoindev mailing list discussion. Also removes the code to enforce those limits, including the -datacarrier and -datacarriersize config options. These limits are easily bypassed by…GitHubbitcoin この提案は、現在Bitcoin
レイヤー2プロトコルの実装に役立つ「Pay to Anchor(P2A)」とは?
最近はビットコインの手数料相場が低めで推移しているため、送金が詰まってしまったという方は少ないかもしれません。しかし、ギリギリの送金手数料でトランザクションを配信した後、手数料相場が上昇してしまって送金が取り残されるという経験をしたことがあるビットコイナーは多いはずです。 個人の送金であれば、同じトランザクションの手数料を増やして再配信することができます。このReplace-by-feeという挙動が既定になって数年が経ちました。 Bitcoin Core 24.0からのFull RBF既定化についての議論まとめこの1週間ほど世間の話題はFTXの信用不安問題で持ちきりですが、ビットコイン開発者の多くは全然違う論争に巻き込まれていました。Bitcoin Coreの次期リリースである24.0において、ノードのポリシーとしてFull RBF (mempoolfullrbf)というものが導入される予定のところ、これに反対する意見が出たためです。 結果的には導入継続という流れになりましたが、このように誰でも意見・議論できることがビットコイン開発における健全性維持の1つの仕組みです。 それでは議

それにもかかわらず、「草コイン(関連のデータ)をビットコインに書き込ませるな」「Bitcoin Coreの開発者は買収されているのではないか」などの感情的な反発に対してBitcoin Coreも十分に説得することができず、その結果として2025年を通して不毛な議論が延々と続く事態となってしまいました。(途中、一部の過激派がフォークするしないみたいな話にまで発展し、やっと直近で少し落ち着いた印象があります)

その一方で、Arkなどレイヤー2を利するコベナンツの導入やいわゆる量子耐性の獲得に向けた議論は目立ってはいませんが着実に進んでいます。量子耐性についてはデッドラインがある程度先であることと、焦って脆弱な仕組みを入れないことが非常に重要なため、今後も慎重なペースで議論が進むと考えられます。

ビットコインは量子コンピューター耐性をどうやって手に入れるのか
ここ数年、定期的に話題に上がる量子コンピュータのビットコインに対する脅威が今週もツイッターで話題になっていました。確かに量子コンピュータは進歩していますが、現時点で状況が大きくは変わっておらず、ビットコイン研究所のFAQにも簡潔な回答があります: 量子コンピューターが出てきたらビットコインは大丈夫なのか?豊かな知識とともに。ビットコイン研究所田中 芳治 また、4年近く前に有識者によってSpotlightに投稿された以下の記事もとても参考になるので、お時間のある方は読んでみてください。 ビットコイン vs 量子コンピュータ本記事では結局量子コンピュータはブロックチェーンに対してどのような影響があるのかをなるべく詳細に説明Spotlight😆 この話題が盛り上がるとき、多くの場合話題の中心は「量子コンピュータがどのようにビットコインに対して脅威なのか」「時期的にはいつくらいからリスクがあるのか」「自分が取れる対策は」というテーマになります。しかし重要なのはビットコインがどのようにして量子コンピュータ耐性を獲得するのか、そのプロセスなのではないでしょうか。 今日はビットコインが量

Knots論争をふまえると、むしろ目立ってSNSで議論に上がってしまわないほうが開発面ではいいことも多いのかもしれないと思うようになりました。得に最近はLLMを使ってそれっぽいリプライを付けることで開発者や有識者の時間を浪費させるDoS攻撃のようなものも散見されます。また単純に、多くの人が些末な部分について意見が割れることで、いわゆるバイクシェディングに陥りやすそうです。

前半のトレジャリー企業の大躍進が、後半になって重しに

もう1つ印象的だったのはトレジャリー企業の大流行です。メタプラネットは時価総額が2025年の年初から一時的に9倍にも増加し、世界中でトレジャリー企業が雨後の筍のように乱立しました。ブームが暮れてきた年後半にできたその大半は値動き的には苦しい展開が続いています。

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なお、ここでいう「トレジャリー企業」とは、株価対策ビジネス(対株主ビジネス)としてビットコイン保有を打ち出す企業のことであり、法定通貨の価値既存リスクに対して単純に資金の一部または全部をビットコインとして保有する企業とは異なる概念です。後者は今後も増えていくでしょう。

面白さでいえば、8月に日本国内で堀田丸正という和服の会社がBitcoin Japan株式会社へと名称変更しましたが、私の認識が正しければいまだにビットコインを保有すらしていないという会社名のわりに皮肉な展開になっています。

BitcoinTreasuries.NET - Top Bitcoin Treasury Companies
Track Bitcoin holdings of public companies, governments, and institutions. Live data on corporate BTC treasuries with real-time valuations.

トレジャリー企業についてのデータを集めたサイト

技術的なテーマではないので私は本稿ではトレジャリー企業についてはあまり触れてきませんでしたが、Knots論争と並んで今年の2大くだらないテーマだったと感じます。ビットコイン現物を買うよりトレジャリー企業を買ったほうがいい理屈は、ほぼほぼ自分より割高な状態でトレジャリー企業の株を買う愚者が現れることに依存しているため、ビットコイン自体はあまり関係ありません。もちろん、企業を通してビットコインを保有しても、自由に動かせるわけですらありません。

ただ、トレジャリー企業という現象はまさに「ビットコインが価値の保存として世の中に広く認められた」結果です。価値の保存という文脈は明らかにかつてないレベルで浸透しています。

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無論、トレジャリー企業のおかげでビットコインが価値の保存として認められたというわけではありません。価値の保存として信頼されているからこそ、多くの会社が安心して株価対策として採用できるわけです。

ここからは私の持論ですが、価値の保存が広く認められるといよいよ交換機能、つまりビットコイン決済が見直されると考えています。ビットコインがほしいとなれば、買う以外にも受け取りたいという需要が生まれる。年の暮れにBlock社がSquareにビットコイン決済を導入したのみならず、「ドル建て売上の最大50%をビットコインで受け取る」機能を入れたのは単純なビットコイン決済よりも普及しやすそうな施策で、慧眼だと思います。

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ビットコイン決済自体の普及は、支払うユーザーと店舗がビットコインを使うメリットを折半できればなお普及しやすくなると思います。

ライトニングウォレットの仕組みとしてSparkの導入が急速に広がる

Wallet of Satoshiがセルフカストディモードを実装し、そのバックエンドに選ばれたのがSparkだったのもかなり衝撃が大きいニュースでした。Sparkの発表自体は2024年の夏だったため、かなりのスピード感をもって話が進んだのだと想像できます。

Lightsparkが発明した新しいレイヤー2:Spark
ノンカストディアルなライトニングをエンドユーザー向けにスケールさせることの難しさはウォレット事業者が一番痛感しています。これが最近の記事でも取り上げた「Nodeless Lightning(Liquid Networkを使わせるライトニングウォレットのバックエンド実装)」のようなアイデアにつながっています。 セルフカストディ型のライトニングウォレットのスケーラビリティを補完できる技術は出てくるのかライトニングでセルフカストディをしようと思うと、最低でも自分でチャネルを保有する必要があり、よりトラストレス性を高めようと思えば自分のノードを立てることになります。したがって、世の中にあるセルフカストディ型のライトニングウォレットはこのいずれかの形をとっています。 しかし、この使い方にはコストがつきものです。例えばチャネルの開設には今のオンチェーン手数料が低迷している環境でも数十円、場合によっては数千円以上になることも考えられます。ライトニングノードの維持も無料ではありません。(趣味で維持している場合は無料のように考えてしまいますが) ライトニングはカストディ型で普及する、という今では主流の

それ以外にも様々なウォレットがSparkを導入または検討しており、1つのトレンドとなっています。本稿でもSparkについていくつか記事を書きました。Sparkを簡単に説明すると、ステートチェーンとArkにインスパイアされた、エンドユーザーの単独出金が可能でありつつ実質的には運営者をある程度トラストする、ノンカストディアルな規制対策のプロダクトです。

SparkとXverseの提携で浮かび上がる、新種のビットコインエコシステム
Wallet Of Satoshiのノンカストディアル版のバックエンドに採用されたSparkですが、他にも導入するウォレットが出てくるなど快進撃が続いています。 Lightsparkが発明した新しいレイヤー2:Sparkノンカストディアルなライトニングをエンドユーザー向けにスケールさせることの難しさはウォレット事業者が一番痛感しています。これが最近の記事でも取り上げた「Nodeless Lightning(Liquid Networkを使わせるライトニングウォレットのバックエンド実装)」のようなアイデアにつながっています。 セルフカストディ型のライトニングウォレットのスケーラビリティを補完できる技術は出てくるのかライトニングでセルフカストディをしようと思うと、最低でも自分でチャネルを保有する必要があり、よりトラストレス性を高めようと思えば自分のノードを立てることになります。したがって、世の中にあるセルフカストディ型のライトニングウォレットはこのいずれかの形をとっています。 しかし、この使い方にはコストがつきものです。例えばチャネルの開設には今のオンチェーン手数料が低迷している環境でも

Sparkへの需要の根底には、仮想通貨事業者(VASP)に対する世界的な規制強化があります。例えばカストディ型のウォレットはVASPに該当してしまうため、登録がない国ではアプリストアから排除されるリスク、運営者には法的リスクがあります。(例えばWallet of SatoshiはSparkを統合するまで米国から撤退していました)

しかし、多くの国ではノンカストディアルで交換を伴わないサービスはVASPに該当しないという整理が現時点ではされています。したがって、カストディ型に該当せずにライトニング対応するためにSparkのようなソリューションが求められるのは当然です。従来のセルフカストディ型のライトニング対応よりもかなり単純なのがポイントです。

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余談ですが、仮にVASPとして登録してしまうとトラベルルール対応などでUXが極端に決済に不向きになってしまう可能性があるので、ウォレットの方向性としては正しいと思います。悪いのは過剰コンプライアンスに陥っている規制だと思いますが。

ただ、Sparkのセキュリティはフェデレーションを運営するLighstpark、Flashnetの2社が共謀しないことに依存しており、この2社は創業者が家族という非常に関係が深い会社です。国によっては実質的にカストディと見なされる可能性もゼロではありません。特に日本のように厳しい国ではなおさらです。

また、Sparkはステーブルコイン対応をうたうなどビットコインとは思想が若干異なる独自方針も入っており、長期的にビットコインとインセンティブが整合するのか不安な側面もあります。

はたしてSparkはよりトラストレスなArkベースのソリューションが誕生するまでの過渡期のテクノロジーなのか、それとも規制回避テックとして「十分な分散性」を提供するポジションで存在感を発揮しつづけるのか。ステーブルコイン対応が吉と出るか凶と出るかなど、Sparkは今後も要注目の技術です。

まとめ

2025年を振り返ったときに抑えておきたいポイントは以下のとおりです:

・Knots論争とトレジャリー企業が盛り上がったが、どちらも長期的にビットコインにとって実質的な影響は小さい、些末な話題である。夏頃にもっとも盛り上がり、年末にかけて下火になってきた。

・コベナンツ、量子耐性の獲得など様々な議論が進んでいるほか、メモリプールのポリシーなど技術的な改善は進んでいる。監視や議論は重要でありつつも、SNSが開発に影響を与えるとむしろネガティブな影響もありうる。

・ライトニングウォレットの規制回避テック(カストディにあたらず、つまりVASPに該当せずに簡単にライトニング対応できる技術)としてのSparkは引き続き要注目である。しかし、運営会社の実態やビットコインとの長期的な親和性が不透明な部分もある。