「AIエージェントにお金は必要?自律型AIが貨幣を持つ5つの理由」の記事では、AIは自律型になればなるほど、貨幣が必要になってくるという点を説明しました。

AIエージェントにお金は必要?自律型AIが貨幣を持つ5つの理由
自律型AIエージェントにお金は必要なのか。AIの自律化が進むなかで、存続にかかるランニングコスト、無料領域の限界、サービス提供者の経済合理性、有限資源下の競争原理という5つの観点から、AIと貨幣の関係を整理します。AIが経済主体となる可能性と、求められる貨幣の性質を考察します。

自律型AIエージェント(本記事では以降「AI」と表記します)が貨幣を利用するとしたら、どの通貨を選ぶのでしょうか。

本記事では、AIが貨幣を利用する際の条件を考え、人間が使用している既存の貨幣の中からどの決済手段がより適切であるかを考察します。

そして、AIにおいて自己主権性がなぜ重要となるのかを整理し、その観点からビットコインの意義についても考察します。

AIが使う可能性のある決済手段一覧

現在、人間が使用している主な決済手段として以下が考えられます。

  • 銀行口座
  • クレジットカード
  • PayPal / Stripe
  • ステーブルコイン
  • 暗号資産(アルトコイン)
  • ビットコイン

AIも人間と同じ決済手段を利用すると仮定し、自律型AIにおける通貨・決済の利用条件を当てはめ、より適した貨幣について考察します。

利用条件:AIが主体的に利用できるか

white digital device at 2 00

AIが主体的に利用できるかという観点を、本記事では「利用条件」と定義します。

主に2つの条件が考えられます。

  1. 自律的に開始できるか
  2. 継続的に利用可能か

1. 自律的に開始できるか

まず、AIが主体的に貨幣を扱えるようになるかが重要です。

中央集権的なアカウント開設機構のある以下3つの方法は、AIがアカウントを開設することが難しいため、不適切と考えられます。

  • 銀行口座
  • クレジットカード
  • PayPal / Stripe

仮に、AIが電話番号、メールアドレスを持ったとしても、運転免許証やパスポート情報など法的な人格に基づく情報は提供できません。

また、AIの数は動的に増減するため、例えば100億アカウントの申請が来た場合にアカウント開設の処理が追いつかない可能性があります。

そのためAIが利用する貨幣は、誰の許可もなく口座開設・送受信できるようなシステムであることが望ましいと考えられます。

2. 継続的に利用可能か

自律型AIにとって、長期的に利用できる貨幣であることは重要です。

初期的には短いタスクの実行で事足りることがほとんどかもしれません。しかし、今後AIが成長するにつれて複雑かつ長期的なタスク実行が必要となります。

長期的な計画を立ててタスクを実行する中で貨幣の利用が停止されれば、タスク自体が停止する可能性があります。こうした事態を避けるためには、不確実性を可能な限り減らすことが合理的です。

主なステーブルコイン、例えばUSDT、USDC、JPYCにはそれぞれアドレスの凍結機能が備わっています。ステーブルコインは発行体が各国の法規制下にあるため、凍結機能を備える設計が一般的です。

アドレスがブラックリストに登録されると、該当トークンを送金できなくなってしまいます。

仮にAIの経済圏が特定のステーブルコインに依存している場合、アドレスが凍結されれば当該AIは経済活動を継続できません。新たなアドレスを生成したとしても、関連ウォレットとして凍結対象になる可能性があります。

ステーブルコインとビットコインに関する論考記事もぜひご覧ください。

ステーブルコインはビットコインにとって「利便性向上の起爆剤」か、「歓迎されざる競合」か?
ステーブルコイン流通の中心地がビットコインから他のブロックチェーンへと移って久しい近年ですが、ビットコイン、特にライトニングにステーブルコインを取り入れようという動きが盛んになってきていることはご存じでしょうか? 過去に本稿で紹介したことのあるOmniBOLTは立ち消えてしまいましたが、Taproot AssetsやRGBといったビットコイン上のトークン発行プロトコルはまだ健在で、特にTaproot Assetsに関してはUSDT(テザー)と協力してステーブルコインの流通を始める寸前という状況です。 2024年はTaproot Assetsの年になるのか?草コイン投機需要を虎視眈々と狙うTiramisu Wallet昨年はOrdinals Inscriptionsの誕生に端を発してビットコイン・ブロックチェーン上での投機熱が盛り上がりました。NFTから始まったブームは草コインへと移行しましたが、Ordinalsに対応していれば同じウォレットで取引できることで一つのエコシステムとしてまとまっている感覚はあります。 ところがNFTの文脈であればある程度理解できた「ビットコイン上にデータ

ステーブルコイン:国家権力と制度依存の問題

ステーブルコインには発行体が存在し、その発行体は特定国家の法規制下にあります。国家は企業や個人に対して法的強制力を持つため、規制変更や行政命令によってアドレス凍結などの措置が行われる可能性があります。

実際に、AI企業に対して国家が協力を求め、従わなければ法的措置を示唆する事例も報じられています。

2026年2月には、米国防総省高官がAnthropic社に対し「協力しない場合は法律で強制する」と発言したと報じられました。国家安全保障を理由とする場合、企業は国家の意思に従わざるを得ない構造にあります。

そして、特定のステーブルコインに依存することは、間接的にその国家の法規制下にあることを意味します。

AIが国家に依存しない存在であるとすれば、経済面を通じた制度依存は大きな制約となります。

貯蓄における継続利用性

AIは支出だけではなく、収益を得る場合もあります。収益を得る場合、より長期的に価値が保存される貨幣であることが望ましいです。

特定の開発主体や財団の意思決定に影響を受ける暗号資産や、プロトコル変更が頻繁に行われる設計の資産は、長期的な価値保存手段としては不確実性を伴います。

長期にわたり存続するAIにとって、制度的・構造的に価値保存が担保されにくい資産は合理的な選択肢になりにくいと考えられます。

性能条件:AIが実用的に使えるか

person holding 1 us dollar bill

仮にAIが問題なく利用できたとしても、実用面で耐えられなければ現実的な選択肢にはなりません。そういった実用面の条件を「性能条件」と呼ぶこととします。

AIが求める貨幣への性能について様々なものが考えられますが、以下の2点は重要であると考えます。

  1. デジタル完結で保管・送受金ができるか
  2. 高頻度・高速送金が可能か

1. デジタル完結で保管・送受金ができるか

保管、送受金がデジタル空間で完結する貨幣であることが望ましいと考えられます。ビットコインやステーブルコイン、その他のアルトコインではデジタル完結での決済が可能です。

加えて、AIは動的な存在であり、アカウントを逐一提供することが難しいため、決済に伴い有料リソースを提供するための機構が重要となります。

ビットコインのLightning Networkでは「L402」という、Web上の有料リソースに対しライトニング払いでアクセス認証を得られる規格が存在します。

L402:有料コンテンツやAPIの認証におけるスタンダードを目指す野心的なプロトコル
概要 ・L402 (旧LSATs)はウェブ上で有料のリソースへのアクセス認証をライトニング払いで入手できるトークンで行うための規格である。 ・ユーザー情報の登録やクレジットカード決済の必要なしに有料リソースに対して少額従量課金やサブスクリプションのような決済方法を提供する。例えば有料APIの提供時にユーザー情報や支払い情報を管理することなくステートレスにアクセスを制御できる。 ・L402/LSATsを提唱したLightning Labs自身が提供するLightning Loop・Lightning Poolサービスにすでに利用されているが、規格化によって他のサービスでの利用やLnd以外のノード実装で利用できるインターフェースが用意されやすくなる。 ・L402という名称はこれまで一般的に使われてこなかったHTTPレスポンスコード402 PAYMENT REQUIREDに由来する。 Lightning Labsが提案しているL402という認証プロトコルとAIエージェントの相性についての話題が盛り上がっています。私はAIについては詳しくないのでその相性の話は割愛しますが、広い話をす

その他にも決済手段を限定しない「x402」という規格も存在します。x402はCoinbase社によって開発された規格のため、Circle社との関係上USDC決済の動きが活発です。

決済者の識別としてL402やx402ではなく、Nostrを活用することも考えられるかもしれません。この辺りは、様々な方法が模索されていくと考えられます。

保管、送受金に加え、支払いに対する認証機能が付属することにより、AIが決済した場合に有料API等のサービス提供を受けることができます。

2. 高頻度・高速送金が可能か

AIが決済を行う場面の多くは、長期タスクの実行中であると想定されます。

タスク実行中の決済は即時性が求められます。また、高頻度の送金に耐えられる設計であることが、無数のAIによる同時決済を支える機能となります。

例えば、ビットコインでは主に3つの送金方法が考えられます。

  • オンチェーン
  • Lightning Network
  • eCash

AIがビットコインを利用する場合、高頻度・高速送金が可能なLightning Network、またはその周辺技術のArk等をメインに使用すると考えられます。

オンチェーン

オンチェーンの場合、1ブロックを待つとしても約10分を待つ必要があり、タスク実行計画の設計が複雑になります。

長期的に存続するAIが、より静的にビットコインを保管する方法としてオンチェーンを活用する可能性があります。

Lightning Network

Lightning Networkであれば先ほど紹介したL402も可能であり、即時決済が可能です。また、AIの決済は少額かつ高頻度であることが多いと考えられます。

ブロックチェーンでの処理の場合は、1つのブロックに含めるトランザクション数に上限があります。一方で、Lightning Networkではいくつかのチャネルやノードを伝って分散処理されるため、オンチェーンよりも大幅に高いスケーラビリティが期待でき、相性が良いと考えられます。

しかしながら、Lightning Networkは流動性管理や、AIに対するリモート署名の活用など、様々な試行錯誤が行われている段階です。2026年2月11日には、Lightning LabsがAIエージェントのためのLightningツールキットを公開しました。

The Agents Are Here and They Want to Transact: Powering the AI Economy with Lightning
For Agents 🤖 For Humans 👋 Today, we’re open sourcing a new set of tools that give AI agents the skills to operate natively on the Lightning Network…

eCash

ビットコインにおけるeCashはCashuFedimintなどがあります。

eCashはプライバシーが非常に高く、Lightning Networkよりも即時性やスケーラビリティが高い特徴があります。そのため、AIが採用する可能性もあります。

一方で銀行預金の仕組みに似ており、ミントやフェデレーションへの信頼が必要となります。Lightning Networkがメインで、場合によってはeCashが使われるという使い分けが発生すると考えられます。

eCashの詳細については、下記記事を参照ください。

Chaumian eCashを扱うエコシステムがCashuを中心に活発化
本稿でも2021年夏に紹介したFedimintはその後も着々と支持を集めており、特にフェデレーション型ではない通常のカストディによるChaumian eCashエコシステムが成長し続けています。カストディと引き換えにプライバシーとスケーラビリティを実現するFedimint及びChaumian eCashについては下記の記事をご覧ください。 Federated Chaumian Mintsで分散カストディアル・ライトニングウォレットビットコインのレイヤー2はライトニングネットワーク以外にもいくつか出てきていたり、提案されています。そのうちの1つとして、Federated Chaumian Mintsというものが少し話題になっていたので、それがどういうもので、何ができるのかを調べてみました。 https://fedimint.org CHAUMIAN MINTとは ビットコインが誕生する前にも、いわゆる仮想通貨というものは実験されていました。新しいものから遡ると、代表的なものではE-gold、Liberty Reserve、Digicash (Ecash)などが挙げられます。特に、公開鍵

AIにおける主要決済手段の比較

ここまでの「利用条件」「性能条件」を整理すると、主要な決済手段は以下のようにまとめられます。

条件 銀行 ステーブル アルトコイン Lightning eCash
自律開始 ×
継続性・凍結耐性 × ×
デジタル完結
高頻度決済 ×

この整理から分かる通り、「自律開始」と「デジタル完結」では複数の選択肢が存在する一方で「継続性・凍結耐性」「高頻度決済」という観点では差があります。

自律型AIには自己主権性が重要な理由

ここまで、AIに適した貨幣の条件として「利用条件」と「性能条件」を整理してきました。

利用条件として挙げた「自律的に開始できるか」「継続的に利用可能か」という2点は、いずれも第三者の裁量に依存しないかどうかという問題に集約されます。すなわち利用条件は「自己主権性」と言い換えられます。

自律型AIは長期的な計画のもとで意思決定を行う存在です。貨幣が発行体や国家の裁量によって凍結・制限され得る構造では、経済活動は常に外部の判断に左右されます。

現在のAIは法的な人格を持たず、インフラやプラットフォームに依存しています。経済基盤までもが第三者依存となれば、不確実性はさらに増大します。

自律的に機能するためには、経済活動が恣意的に停止されない構造が重要です。単一主体によって停止できない設計を持つ貨幣は、AIの自律性と相性が良いと考えられます。

ビットコインは他者への信頼依存から脱却できるデジタル資産であり、人間だけではなくAIの自己主権性も守る貨幣であると私は考えています。

まとめ:将来的に自律型AIエージェントがどの貨幣を選ぶのか

自律型AIが使う貨幣について「利用条件」「性能条件」からどの貨幣が利用において適切であるかを考察しました。

そして、なぜ自己主権性が重要なのかという点について、AIの依存性と不確実性をもとに論じました。

AIが短期タスクに取り組む場合は「性能条件」を追求すると考えられます。一方で、今後より長期的なタスクに取り組むようになれば「利用条件」つまり自己主権性を重んじる可能性があります。

そのため、いきなり全AIがビットコインを使うことは想定していないものの、人間への依存度を減らす上で、長期的にはAIが貨幣の選択肢としてビットコインに行き着くのではないかと考えられます。

ビットコインが単一主体によって停止できない設計であるように、AIの経済活動もまた停止不能であることが重要です。

国家や法規制を含む人間社会の影響を受けにくい、堅牢で中立的な貨幣が選ばれるのか。それとも既存の制度に依存する道を選ぶのか。あるいは、AIに最適化された新たな貨幣が生まれるのか。

結果はわかりませんが、今後の動向を注視していきたいと思います。