これまでに引き続き、サッカーにおけるNFTの利用について調べ、その考察をしていこうと思います。今回はファントークンについてです。ファントークンを発行・販売することで、クラブは運営資金を得ます。一方、購入した人(サポーター)は、クラブの意思決定に参加したり、様々な特典等を受けます。ヨーロッパの特に人気のあるビッグクラブはかなり多く導入しています(参考としてSocios.com)。日本でもいくつかのクラブが発行されています。これらについて調べてみました。

クラブ経営の観点

サッカー界はグローバル市場で発展しており、欧州トップリーグのビッグクラブを中心としたピラミッド構造になっているといわれています。詳しくは、電通でサッカービジネスに携わっておられた大井氏の論文が分かりやすくまとまっています。

現在のサッカー界はとてもグローバルな世界でして、国際試合や選手移籍が活発に行われています。論文中で解説されていますが、いわゆるEUによるボスマン判決(1995年)やFIFAによる移籍制度改革(2001~2005年頃)などによって、欧州に世界中の優秀な選手が集中するようになりました。経営規模の点からみても、欧州トップのリーグに対してその他のリーグのクラブは太刀打ちできません。特にイングランドプレミアリーグ(EPL)が独り勝ちの様相です。

しかし、営業収入が大きい欧州ビッグクラブでも、放漫経営による経営問題がコロナ前からありました。どのクラブでも一歩間違えれば破綻の危機があります。そこで経営を安定させるために、アジアや北米などの新しい市場に進出するようになります。2002年にアジアで初めての日韓W杯が開催され、その後、ヨーロッパのビッグクラブが日本ツアー・アジアツアー・北米ツアーなどをオフシーズンに行うようになりました。

その結果、国外のサポーターを獲得することになり、放映権料による収入が増加することになりました。例えば、EPLの放映権料はイングランド国内と国外でおよそ半々になっており、国外放映権収入の割合が非常に大きいです。例えば、タイのファンが週末にバンコクのビアガーデン中継みて楽しんでいるわけです。彼らは飛行機で12時間などの時間をかけてスタジアムに来ることはなかなかできません。代わりに中継を見たり、グッズを買ったりするような人です。日本にもたくさんいますね。

タイのキング・パワー・グループ設立者のビチャイ・スリバダナプラブハ氏は2010年にレスター・シティを約3900万ポンドで取得しました。ほかにもアジアの大企業がスポンサーになっています。このような方策を通じて、国内も含めて、国外のファンからも試合が無い日を含めて収益を上げたいという考え方があります。欧州クラブでNFTによる仕掛けはそのような背景があると思います。

一方で、日本のクラブが欧州トップクラブと同様のことを行ったとしても、事情が異なることになると思われます。まず、日本のスタジアムは(集客力に対して)大きすぎる場合が多いです。欧州では人気クラブの試合チケットはなかなか手に入らず、価格も高騰しています。しかし、Jリーグではそこまでのクラブはありません。試合に来てもらう努力が大事のように感じます。そのうえでクラブの価値を高めなければ、たくさんの海外の人が観るリーグになれません。

経営規模の観点で日英を比較します。例えば、Manchester Unitedは株式会社によって運営されており、営業収入が公開されていますが、コロナ前の2019年は総収入627.12 m£(約1000億円)でした。それに対して、日本では営業収入上位3チームはそれぞれ次の通りです;ヴィッセル神戸(約114億円)、浦和レッズ(82億円)、川崎フロンターレ(約70億円)。J2,J3の中ではもっと小規模です。これらは事業費や選手獲得などの費用の規模に直結します。

欧州以外のほとんどの地域のクラブは100m£(160億円)以下でしかないので、日本が悪いというわけではありません。しかし、日本のGDPは今でも世界第3位を維持しているわりには小さな規模で運営されています。日本でも、ビッグクラブを目指せれば目指すべきだと思いますが、現時点ではほとんどのクラブは難しいでしょう。欧州クラブのNFTをそのまま真似するのは難しいと思います。

サポーター文化との観点

欧州クラブのNFTファントークンに対して、批判的な意見もあります。トークンを購入することに意味を見いだせないという主張があります。それとは別に、スタジアムに来ている地元のファンを大切にしてほしいという運動もあります。「Don’t pay to have your say (発言権を得るためにお金を払う必要はありません)」と主張する人もいるようです。古い町にニュータウンやタワマンができたりして、「内地人(旧住民)」と「外地人(新住民)」との間での闘争が始まってしまうのと同じようなものかもしれません。

多くの欧州クラブでは、ファン・サポーターは地域コミュニティと一体になっており、クラブは地域を代表するものという考えがあります。バルセロナとカタルーニャ独立問題が有名ですが、政治問題になってしまう場合もあります。また余談ですが、ウクライナ軍のアゾフ連隊は、ハルキウ市のサッカークラブのサポーターが起源といわれています。

しかし、トップクラブになると外国人オーナーになることもあり、客層も多国籍になります。かつては、過激なサポーターはフーリガンとよばれ、ネオナチズム・人種差別との関係があると批判されていましたが、今は安全安心の観戦ができるような対策が取られました。イングランドやドイツでは子供や女性の観戦者が増加しています。クラブの価値が高まることにつながり、ファントークンの発行の後押しになっているように感じます。

日本は欧州と比べると地域コミュニティが脆弱であり、過疎地域では若い人の転出や地場産業の衰退が起こっています。政令指定都市や県庁所在地クラスの都市であれば、人口もある程度ありますので、経営努力で発展できるでしょう(参考「長崎スタジアムシティプロジェクト」西九州新幹線開業とスタジアム新設を含めて100年に1度といわれる大開発が行われている)。

しかし、そうではない地方都市は大変で、残念ながら身の丈にあった経営が必要です。スタジアムを新設する際には、収容人数を減らすような動きも必要です。その上で、ホームタウンの広域化・移転ということも場合によっては考えなければなりません。クラブが地域の代表であるという前に、地域コミュニティそのものが崩壊しているのです。

こういう小規模都市をホームにするクラブであれば、NFTファントークンのように地理的距離にとらわれず、ファンをつなぎとめることができるかもしれません。今は地元を離れて、都会にいってしまい、なかなかスタジアムには行けないが力になりたい。そういう人をうまく取り込めれば、良いのかもしれません。

J1とJ2の全40チームについて、ファントークン発行状況とホームタウン規模との関連(2022/9/7時点、筆者調べ)

上図ではファントークン発行状況をまとめました。J1とJ2のクラブのうち、政令指定都市や県庁所在地ではないホームタウンのクラブは、鹿島、柏、湘南、町田、磐田、琉球(FC琉球は沖縄県全体をホームタウンとしていますが、あまりに広すぎているように思いますので、このコラムでは沖縄市中心とした本島中部を本拠地としてみなします)の6チームです。政令指定都市のような大きな都市や、県庁所在地のような知名度のある都市よりも、これら6都市の方が発行割合が高い傾向のようにみえます。ここに上げないクラブでも、J3クラブや地域クラブでもファントークンを発行したりしているようです。