ビットコイン初のDeFi Atomic.Finance
週はお休みの予定でしたが、タイムリーなニュースが入ってきたため、予定変更でお届けします。
先週2021/07/16のコラム「ビットコインを運用して収益を得る」で運用に伴うリスクについて触れました。

奇しくもその4日後、3つのリスクの一つ「規制リスク」が顕在化しました。レンディング最大手のBlockFiがニュージャージー州の検察証券局から一部業務停止を命じられたのです。理由として、提供する利息口座が預金保険制度対象外のため投資家保護が不十分であること、未登録証券に該当するコインを許可なく販売していることの2つが挙げられています。命令を受け、BlockFiは利息口座の新規顧客の受け入れを停止する一方、未登録証券販売については該当しないと争う姿勢を示しました。
BlockFiはバリュエーション50億ドルの業界最大手であり、レンディング以外にも収益源があるため、この件が資金繰り悪化に直結する可能性は小さいと思いますが、これが運営実態がよくわからない企業やDeFiだったら分かりません。まさか、が現実と化すことも多い業界なので、根拠のない楽観は禁物です。後悔しないよう、自己責任で調査、評価、判断しましょう。
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以下、前回の予告通り、Atomic.Financeというプロジェクトをご紹介します。
Atomic.Financeは2019年4月にカナダのトロントで創業、プレシード20万ドルをConsenSysから調達し、Atomic LoansというビットコインのP2Pレンディングプラットフォームの開発を始めました。チーム(といっても当時20歳のCEOとCTOの2人)は、ビットコインの哲学を引き継ぐ金融ツールの必要性を痛感していました。というのも、既存のビットコイン金融サービスは中央集権的で、ビットコインからビットコインIOUへの交換が必須、利用者は事業者が契約期日にIOUと引き換えにビットコインを返却するはずだと信用せざるを得ないなど、ビットコインの透明性、検閲耐性、トラストレスという価値提案に矛盾するためです。
しかし、これほどビットコインに強い思い入れを持ったチームがAtomic Loansのベースとして選んだブロックチェーンは、ビットコインではなくイーサリアムでした。開発に必要なスマートコントラクト機能がビットコインにはなかったためです。
イーサリアム上で開発を進め、2020年4月にはシードラウンド245万ドルを調達するなど、一見、順風満帆でしたが、チームは葛藤を抱えていました。100年単位での永続を目指す革新的インフラをイーサリアムという不安定な積み木の塔の上に構築することに限界を感じ、競合DeFiと戦うために無意味なトークンを発行してネズミ講詐欺に加担せざるをえない状況に嫌気がさしていました。
ちょうどその頃、ビットコインでもスマートコントラクト技術Discrete Log Contracts (DLCs)が実用段階に入ったところでした。DLCを使えばビットコインブロックチェーンでも開発が可能なことを検証後、2020年8月にイーサリアムからビットコインへのピボットを発表しました。プレシードに続きシードラウンドでもConsenSysから出資を受けていたため、このピボットはTwitterで話題になり、ビットコイナーの間で知名度を一気に上げました。
そして今年3月、Atomic.Financeはビットコインのカストディを放棄せずトラストレスにイールドを得られる金融プラットフォームの構想を発表し、ビットコイン初DeFiとして話題をよびました。
個人的には、DeFiの定義が不明確なことと、アルトコインDeFiにネガティブなイメージを持っていることから、ビットコインDeFiという呼称に抵抗を感じていたところ、他にもそうした指摘があったのか、チームも最近はDeFiではなく、Sound Financeという用語を使うようになりました。富裕層に優しく貧者に厳しい、個人情報を不要に収集し不当に取り扱う、自分のお金でありながら使用や送金に第三者機関の許可を必要とする現在の不健全(Unsound)な金融システムを代替する、公正(Sound)でプライバシーと個人主権を尊重する新しい金融システムを、ビットコインという健全な貨幣(Sound Money)の土台の上に築くという意図が込められています。
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先月6月には、待望のクローズドベータテストが始まりました。私は3月にベータアクセス申請した時点ではWaitingリスト1359番目だったのですが、早く使いたいとCEOに掛け合い、今月から30名のテスター枠に潜り込みました。
以下、現時点でのアプリUXの概要です。
【初期設定】
アプリをアンロックするPIN設定が求められます。次にウォレットのバックアップ作成が促され、ニモニックが表示されます。これを紙に書きとめ、画面上で入力し正しいことを確認。初期設定は以上です。メールアドレス、居住地、氏名などの個人情報を提供する必要はありません。
【戦略の選択】
現時点で選択可能なのは、カバードコール戦略(ビットコインを保有しつつ、ビットコインのコールオプションを売ってプレミアム収入を得る)のみです。
これまで、カバードコール戦略を実行するには、まずDeribit、LedgerXなどの取引所にビットコインをデポジットする必要がありました。そのため常にカストディリスクが伴います。Atomic.Financeの場合、オプション売却時にアプリが自動生成するDLCのマルチシグアドレスにビットコインをロックします。マルチシグ鍵は自分とオプションの買い手が持つので、Atomic.Financeがビットコインを勝手に動かすことはできません。つまり、Atomic.Financeにはカストディリスクがありません。
また、前述のように、取引所利用時には、取引所が契約満期にビットコインを返却するはずだと信用せざるを得ませんでした。Atomic.Financeでは、オプション売却時に、満期日に起こりうる全シナリオに対してTXが予め作成され、満期日時のビットコイン価格に対応するTXにオラクルが署名することで、コントラクトの規定通りにオプションの売り手と買い手にビットコインが自動分配されます。そのため、オプションの売り手である利用者は、Atomic.Financeもオプションの買い手も信用する必要がなく、カウンターパーティリスクを回避できます。
Atomic.Financeのメリットは、こうしたリスクの最小化だけではありません。
オプション取引に馴染みがないと、戦略のリスク評価はおろか、取引所の板の見方すら分からない場合もあります。この点、Atomic.FinanceはUIが素晴らしく、初心者でも直感的にナビゲートできます。
文末左図は「yield」戦略選択画面です。利用者はまず、自分のリスク許容度に合わせて、低リスク、中リスク、高リスクの選択をします。各リスクのページには、満期日、行使価格、年率換算の期待利益率の異なるオプションが表示されます。各オプションをクリックすると、図のように、戦略詳細とともに、満期日時にビットコイン価格が行使価格を下回る(オプションが行使されない、ビットコインを売却しなくて済む)確率が表示されます。

【戦略の実行】上記で戦略を選択したら、いよいよ実行です。
図の「Proceed」をクリックすると、執行されるのかと思いきや、4択クイズが出されます。利用者が起こりうる結果を正確に理解しているかを試すもので、不正解だと戦略選択画面に戻されます。分かっていても、クイズに答える時にはいつもドキドキしてしまいます。

クイズを無事クリアすると、DLCs作成中という画面が30秒ほど表示され、コールオプションの売却が完了します。
自分のポジション状況は「position」からいつでも確認可能です。
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一通り使ってみて一番感心したのは、ビットコイン関連商品の鬼門とされるUXUIデザインの素晴らしさです。ベータとは思えない完成度で正直驚きました。ビットコイナーの中には、人生初めて買った金融商品がビットコインという投資に不慣れな人も多いです。こうした人たちでも、直感的に使え、リスク周知にも工夫が見られるのは好印象です。
商品も現在はカバードコールのみですが、「Recurring Strategy」という新戦略も近日提供されるようで、こちらも楽しみです。

改善要望としては、最低投資額 0.1 BTCの引き下げ、期日間近のオプションの提供(現在は14日が最短)、USD以外の法定通貨表示などがあります。
あとは、Atomic.Finance単独では解決できないのですが、DLCのアドレスに外部ウォレットから直接ビットコインを送金できるようになると良いですね。現時点では、DLC対応ウォレットがないので、一旦アプリ内のウォレットに送金する必要があります。今はオンチェーンのFeeが安いから手間だけの問題ですが、Feeが高騰すると辛いですね。多めに入れておくにも、スマホのシングルシグでは安全性が心配です。アプリのウォレットをマルチシグにするなども考えられますが、根本的な解決策は、既存ウォレットがDLC対応するか、DLCがライトニング対応するかだと思います。
今後クローズドベータテストを経て、秋にオープンベータ、年内に正式ローンチを目指しているようです。ご興味のある方は、以下からベータアクセス申請してみてください。
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来週はコラムはお休みです。
8月はまた経済学の話題に戻って、ペトロダラー制度や、アメリカで顕在化しだしたインフレ問題などを考える予定です。
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