複雑化するマイニング戦略と、電力会社との協力関係の模索
マイニング業の成熟について今週読んで大変気に入った記事(英語)がありました。内容は自然エネルギー発電の増加による電力網への影響と、電力先物を利用したマイニング業のヘッジについてです。これまでに研究所内で話した電力の特徴やハッシュレート先物などとともに、これからのマイニング業界を理解するために重要になってくる要素がてんこ盛りだったので抄訳するとともに、一般的な話を含めて解説します。
記事の著者も言う通り、今はまだとてもシンプルなモデルで営業しているマイニング業者が多いと考えられていますが、市場環境がよりシビアになる中でリスクを制限するヘッジ方法などが取り入れられていくと、それを理解していることがトレードなどに役立つようになるかもしれません。
用語の定義:
電気料金 = すべてコミコミの消費者向けの料金
電力価格 = 業者間で電力そのものが取引される価格
記事の内容:抄訳
・電力は貯蔵が難しく、常に発電量≒消費量になる必要がある
・自然エネルギー発電は気まぐれなので、火力発電で発電量を調整する
・自然エネルギーが豊富で火力発電が発電していないときも、待機のためのコストを払っている(最終的に消費者が電気料金として負担する)
・自然エネルギー発電設備が増えると、それが最大限に電力を流している状態に耐えられる、普段ではオーバースペックな電力網が必要になり、やはり固定費増大につながる
・このように、電力の提供コストの大部分が電力網の維持など固定費なのに、消費者にとっては従量課金制である。つまり、自然エネルギー発電の増加による固定費の増加が、電気料金の上昇につながる
→当初はコスト増を我慢して、自然エネルギー発電の増加に伴い電力網の増強を行っていたドイツやデンマークでさえも、固定費増加からくる電気料金の高騰が問題となり、自然エネルギー発電からの買取り量を減らす方向に舵を切りつつある。そこで発電事業者自身が余剰電力でビットコインマイニングというのが1つの戦略。
・同じ地域の風力発電と太陽光発電を組み合わせることで互いに補完し、最大容量の5%程度の発電量は90~95%ほどの期間で安定して得ることができる
・残りの10%ほどの期間は電力会社など他の経路で調達するのもよいが…
・風力もソーラーも発電できない状況下では電力価格が一時的に大きく上昇する特徴があるので、普段から月間の予想使用量の10%は電力先物で調達しておき、そのときが来たらASICは止めて先物を売却する、という戦略もありえる
→法定通貨建ての収益を生むため、ビットコイン売却のタイミングが少し余裕をもって選べるようになるメリットもある。
※もともとマイニングできる価格水準で買った電力先物なのなら、個人的にはASICを止める必要があるのかは疑問でしたが、値上がり益とマイニングの利ざやを比較して値上がり益のほうが大きい場合の話のようです。
マイニングによって11円が13円になるが、電力先物が12円から16円になっていれば、操業を停止して先物を売ったほうが得、など。
また、比較的大規模なマイナーであれば複数地域にまたがってマイニングすることで、ある地域で天候によって電力料金が一時的急騰した場合にそこのASICを止めることでネットワークハッシュレートを下げ、電力先物を高値で売りながら他の地域に保有するASICの収益性を上げることができ、地理的分散のメリットが享受できる。
…という内容の記事です。電力先物のくだりと、地理的集中する傾向があると言われるマイニングにおいて地理的分散にもメリットがあり得るという点が面白かったです。
ハッシュレート先物、電力先物、ビットコイン先物を組み合わせてマイニング事業を完全ヘッジ
過去に触れたことのある通り、POWSWAPというハッシュレート先物が提案されていますが、これと電力先物、ビットコイン先物を組み合わせるとマイニング事業のヘッジが完成します。
例えば、向こう1ヶ月の事業をヘッジしたいマイナーがいるとします。
そのとき、マイニングの収益構造を考えることでヘッジすべき点が見つかります。運用するASIC数に変化がない場合、太字の部分が変数です。
支出:[変動費 (消費電力量 × 電力価格)] + [固定費]
収入:[(自社ハッシュレート ÷ ネットワークハッシュレート) × 1ヶ月の総発行量 × ビットコイン価格]
したがって、電力先物を買って電力の調達価格を定め、ハッシュレート先物を買うことで予想以上のネットワークハッシュレートの伸びによる競争力低下をヘッジしてビットコインの仕入れ値を確定することができ、ビットコイン先物を売ることによって売却価格を確定することで利ざやを固定することができます。ここまでやるとほぼノーリスクになりますが、当然コストもかかるので工夫や裁量の余地があります。
こちらの「発電マージンのヘッジ」の図がイメージです。
おわりに
今は単純に電気料金の安さがマイニング業者にとっての一番のエッジと考えられていると思いますが、ここまでの話を読んでいると電力業界とどう関わっていくかの中にも大きな可能性が潜んでいると感じました。
今までは自然エネルギー発電の調節弁の役割を火力発電のみが担っていましたが、もしビットコインのマイニングも調節弁の役割を担うことができるのなら発電所や電力会社などとの協力関係などもかなり大きな要素となってくるでしょう。電力会社や発電所の都合に合わせた条件で契約する代わりに料金の大幅な優遇を受けることが可能かもしれません。
また、マイニングには電気代が高すぎて話にならない日本ですが、電力先物自体は今年の9月に上場しており、電力会社も自由化の影響で増えていたり、太陽光発電の固定買取制度の新規受付が終了するなど、ほぼ国営の状態から自由競争への過渡期にあるので、今後どのように変化していくのか注目です。
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