データセンターは電力だけでなく「水」も消費しているのか? | ビットコインマイニングとの関係
AI関連の設備投資として世界中でデータセンターが建設されています。そんなデータセンターはどちらかというと近隣住民に忌避される傾向の強い施設のようで、よく建設に対する反対運動が起こっています。

上の記事にある通り、反対運動が抵抗の理由として挙げがちなものは以下の3つです:
・大量の電力消費による電気代値上げ懸念
・水資源の消費による水不足懸念
・大気汚染、騒音など副次的な環境汚染
電力消費と騒音はビットコインマイニングの文脈でも聞くことがあったかと思いますが、「水の消費」はデータセンターから連想しにくく意外な方も多いのではないでしょうか。ところが、ネットには実際に「ChatGPTにメールを1通生成させるたびに水を500ml消費している」のような言説が見られます:

データセンターが水を消費するというのは一体どういう状況のことを言っているのか。今日は、この言説にある真実と誇張を明らかにし、ビットコインマイニングに同じような批判が向いた場合に向けて、感情的な議論に振り回されないよう備えます。
「水の消費」は何を意味しているのか:ウォーターフットプリントの問題
ハンバーガー1つの生産に2000リットルの水が必要、だからハンバーガーはエコではないという意見を聞いたことがあるでしょうか。自分は小学生くらいのときに聞いて、すごいと思いつついまいち腑に落ちなかった記憶があります。
この考え方はウォーターフットプリントと呼ばれ、原材料の調達から最終的なゴミの廃棄までを通してどれくらいの水資源を使用しているかを定量化する試みです。以前からあるカーボンフットプリントという考え方は同じように製品のライフサイクルを通してどれくらいの二酸化炭素が排出されるのか定量化し、温暖化対策に活用しようという考え方ですが、それを水に適用したものです。

環境省のウォーターフットプリントのページ
ハンバーガーの例でいうと、具体的には牧草地の草や牛の飼料となる穀物を育てる農地に降った雨や灌漑に使われた水が大半で、そこに流通や加工の過程で使用される比較的少量の水を加えた数字が1バーガーあたり2000リットルといわれるわけです。
カーボンフットプリントの場合は、二酸化炭素排出が純増すると大気中に半永久的に残り続けるという面である程度合理性がある考えだといえるでしょう。植物が吸収する量も純増しない限り、減少には転じないためです。しかし、この考え方を水に適用するのは大きな問題があります。水は循環し続けるためです。
当たり前ですが、ハンバーガー1個に2000リットルの水が含まれているわけではありません。生産過程で「消費」された水は、実際は植物の呼吸に伴う蒸散によって大気中に還元されたり、牛の排泄物として肥料になったりしています。放牧による地下水の汚染など、局所的な環境問題につながる可能性はありますが、地球規模でいえば水資源が減っているわけではなく、ただただ「ウォーターフットプリント」という架空の数字が積みあがるだけです。
家畜の排泄物による水質汚染以外にも、地下水を大量にくみ上げていればその地下水脈が枯れていく可能性はあります。流量が少ない河川が枯れるほど灌漑すれば、アラル海のように大きな環境問題を生むこともあります。しかし、それはあくまでローカルな水資源のマネジメントの問題であり、ハンバーガー生産の環境負荷が無視できるレベルの地域も少なくありません。

ウォーターフットプリントの考え方の問題を一般化すると、ローカルな懸念としての水資源問題を考えることは妥当ですが、一般化した「ハンバーガー1つで2000Lの水消費」「ChatGPTにメールを書かせると水がいくら消費される」という数字はセンセーショナルなパフォーマンスであり、建設的ではありません。
では、ローカルなスケールでAIデータセンターはどれくらいの水を、どのように利用しているのでしょうか?
データセンターによる水利用の実情
データセンターにウォーターフットプリントの考え方を適用すると、その内訳は「設備の製造過程での水利用」と「発電所での利用」と「データセンターの運用過程での水利用」に大きく分けることができます。前者2つはいわゆる半導体の製造にどれくらい水を使っているか、発電所の冷却にどれくらい使われるかという話ですが、データセンターとは離れた場所で行われる工程なので、建設地域の環境とは無関係な数値です。したがって、本稿ではデータセンターの運営に関する水資源の利用に注目します。
AIデータセンターの水利用目的のほぼすべてが冷却のためです。ビットコインのマイニングと同様、サーバーやGPUを使って行われるAIの計算に消費される電力のほぼすべてが最終的には熱として排出されます。先日、これを逆手にとって「マイニングもできるヒーター」として売り出している商品を本稿で紹介しました。
AIにしろマイニングにしろ、データセンターで発生する大量の熱をどこへ排出するかについてはほぼ2つしか選択肢がありません。空気中に放熱するか、海・湖・川などの水中に放熱するかです。
空気中への放熱
一番シンプルなのは、発熱するデバイス本体や、デバイスから熱を集めた放熱器(ラジエーター)に強力なファンで風を当て、ラジエーターの熱を空気中へと逃す方法です。例えば本稿でも紹介したBitaxeは直接ファンでASICチップに空気を当てて放熱します。

より洗練されたデータセンターなどでは、専門的な設備で機材からラジエーターへと熱を運び、そこで排熱します。ガソリン車のラジエーターと同じ仕組みですね。空気は断熱性が高いため、大量の熱を排熱しようとするとかなりの風量が必要になります。
この機構をよりパワフルにする方法として、水の蒸発熱によってより効率的に大気中へと放熱する方法です。ラジエーターにおいて少量の水を蒸発させつづけることによって、より多くの熱を空気中へと放熱できます。電気代が追加でかからない代わりに、水を使用します。

あるいは、ヒートポンプを使う手もあります。いわゆるエアコンです。電気代がより多くかかってしまいますが、水の使用が制限されるような環境においては代替案になるでしょう。逆に、電気代が高い場所では採用が難しいかもしれません。
水中への放熱
水は空気と比べて非常に熱伝導率が高く、常温の範囲で液体であることもあり、冷却に適した物質です。さっきの空冷式の空気を水に置き換えるだけで、圧倒的に冷却力が強化されます。マイクロソフトが水中にデータセンターを設置する試験をしているのはそのためです。
データセンター自体を水中に設置しない場合は、くみ上げた水にデータセンターの熱を移し、そのまま放水するか、先ほどのように蒸発させます。例えば福井県の原子力発電所などはこのように冷却されており、温排水が周辺の水温より6~9℃ほど高いことから生態系への影響が指摘されます(PDF)。データセンターで同じことをした場合、取水地に水を返しているので水資源の量は減りませんが、水温が上がり生態系に影響があるという批判は考えられます。そもそも取水できる量が環境への影響によって制限されるでしょう。
実際の使用量についてもより解像度の高い推計があり、一般的に話題に挙げられる数値のうち97%ほどが発電所での利用(そのうち90%以上がそのまま水源へと戻される)とのことで、データセンター自体で熱交換のために蒸発されるのは3%ほどとされています。このうちいくらかは同じ地域に降雨するので、その地域の水資源の消費はさらに少ないでしょう。
以上の通り、データセンターの排熱は「電力消費(ファン、エアコン)」と「水の消費(蒸発熱、水源との熱交換)」の組み合わせで成り立っており、その組み合わせ方はロケーションによって自在に選択できます。また、実際に取りざたされる数字は実際に蒸発という形で「消費」される水資源の何十倍ということがわかりました。そして、事業継続性の観点からもデータセンター建設の際は注意深い環境アセスメントが必要になるため、データセンターの設置により地域環境に大きな問題が発生する可能性は過大評価されやすい印象を受けます。
ビットコインマイニングにもそのうち向かう批判?
ビットコインマイニングは数年前まで、よく電力消費について批判を受けていました。批判の内容は比較的稚拙なものが多く、このペースでビットコインが成長すると2050年までに温暖化に2℃も貢献すると真面目に語られていました。今も、ビットコイントランザクションあたり〇kgのCO2が~という言説を時折見かける気がします。

頻繁に引用されがちだった、問題だらけのDigiconomistのマイニング批判記事
その後、ビットコインマイニングが電力の安定供給に貢献する事例がアメリカを中心に増加し、一定の社会的認知を獲得したからか批判は落ち着いてきた印象があります。無駄になっていたエネルギーを有効活用したり、生産に大きな波がある自然エネルギーが余ったときの買い手としても世界の自然エネルギー供給量増加に貢献している側面もあります。これに関連して、いくつか過去記事を紹介するので、興味がある方はご覧ください。

さて、ビットコインマイニングの世界は一般的なデータセンターと比べるとまだまだ未成熟な部分が大きかったため、シンプルに空冷で運営されているものが多かったり、複雑な設備を設置できない小規模なデータセンターも多かった特徴がありました。最近はより専門的なハードウェアが登場するなど、より高度なデータセンターへと近づいてはいるものの、AI関連のデータセンターの域に運用状態が達するのはまだ先でしょう。

さらに、そもそもウォーターフットプリントの考え方がデータセンターに適用されるようになったのが比較的最近だったというのもあります。そう考えると、これからビットコインマイニングにも同様の批判が寄せられるようになるかもしれません。
そのとき、ウォーターフットプリントの数字がいかに無意味で、実際の環境へのインパクトは個別のデータセンターごとに異なること、そしてデータセンターの長期運用や費用対効果を考えると、その地域の水資源にダメージを与えるような事業計画は成立しにくいことを知っておくことで、感情的な議論に惑わされることがなくなるでしょう。
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