Blockstreamがminingに参入というニュースが先日出ました。Blockstream自体がマイニングするのに加え、Betterhashというマイニングプールのプロトコルを採用し、マイニングの分散化を促進したいということですが、その概要と課題や懸念について考えてみます。


公式リリースhttps://blockstream.com/2019/08/08/en-mining-launch/

今回の発表の概要

・Blockstream自身もマイニング。2017年から取り組んでいる。全体のハッシュパワーの1%ほどを現在保有。
・クラウドマイニングで外部の投資家もマイニングに投資、参加可能。Fidelityなどがすでに顧客。
・Betterhashを採用したマイニングプールの運営。より分散化されたマイニングプールの実現を目指す。


ビットコインマイニングの集権化問題

さて、今回の発表においてビットコインマイニングの集権化問題が主なモチベーションとして説明され、改めて問題提起されています。
マイニングの集権化といっても色々タイプがありますが、以下のような集権化の傾向、課題が挙げれます。


・ASICマイナー(ハードウェア)の製造の集権化(Bitmain)
・マイニングの地域的な集中化(中国など)
・マイニングファームの大規模化。スモールプレイヤーの参入障壁による寡占化。
・マイニングプールの集権化(Betterhashの説明含めて後述)

ASIC製造に関しては今もBitmainが強いですが、BitfuryやHalong Miningなど少しづつ別の製造企業も登場しており、今回のBlockstreamが採用するマイニング機器もBitmain製ではないようです(これは明らかにASIC集権化を意識したもの)

また、Blockstreamのマイニング施設はカナダやグルジアなど非中国の寒冷地に存在すると発表されています。単純な市場競争に基づき、より安い電気代と政治的に安定した地域へのマイナーの移動は以前から界隈でも認知されていましたが、Blockstreamの今回の決定はマイニングの地域的な集中を避ける意味もあると思います。

そして今回もう一個非常に重要なのが「マイニングプールの集権化の問題」で、以前からビットコインマイニングの集権化という批判をする時にこのマイニングプールの集権化を指していたものも多いと思います。現在トップ3のプールだけでハッシュパワーの半分ほどを握っている状態です。(添付画像参照)

マイニングプールの存在意義

しかし、そもそもマイニングプールはなぜ存在するのでしょうか?マイニングプールが存在する理由は主に2つ挙げられます。


1.マイニングの支払いサイクルの安定化
2.最適化されたマイニングプールソフトウェアなどのサービス提供

要は、一人でマイニングするといつ支払われるか分からないので、他の人と協力することでより安定して支払いを受け取りつつ、プール関連のソフトウェアや面倒な設定はプールに委託したい、という感じです。


長くなるのでこのコラムでは詳細は割愛しますが、プールの仕組みや意義などは以下の日本語の記事なども参考にしてください。(不明な部分があればコメントなどで聞いてください)

https://bitcoin.dmm.com/column/006

マイニングプールと集権化の懸念

マイニングプールは支払いの安定化の観点などから、なくてはならない存在になっていますが、マイニングの集権化の側面で大きな問題があります。プール運営者は直接的にASICを保有しているわけではないですが、プール運営者は利用者を代表する形でブロックを生成します。現状ではその時にどのトランザクションをブロックに格納するかを決めるのもプール運営者です

通常はプール運営者はTx手数料が高いものを優先して単純に収益の最大化を目指すはずですが、プール運営者がトランザクションの選別やブロックのテンプレートの作成が出来てしまうと、実際のASIC保有者の意志に反した行動をとる可能性があります。

以下の記事では現状のマイニングプールの運用方法でどのような攻撃が可能になるか詳細に考察していますが、マイニングプールが可能な主な攻撃や濫用として、
・特定のアドレス(取引所など)や特定の送金タイプ(匿名送金)を検閲、拒否する
・プールがわいろを受け取り、チェーンのReorg(再編成)をしようとする(Binanceのハック事件直後の対応など)
・ハードフォーク時にユーザーの意志に反したチェーンの採掘やユーザーのハッシュパワーを利用して特定のチェーンへの支持の表明する(17年のBitcoinとBitcoin Cashの枝分かれなど)

などを挙げています。プールに権力が集まれば集まるほど、様々な攻撃手法が考えられたり、ビットコイン全体のセキュリティも下がってしまう、と言ってしまってもいいかもしれません。

BetterHash: Decentralizing Bitcoin Mining With New Hashing Protocols
An Overview Of Mining Pool Exploits That BetterHash Disables

Betterhashとは?

上記のようなマイニングプールの集中化による懸念を軽減すると期待されているのがBetterhashというプロトコルです。

現在はマイニングプールの最大の目的の「支払いの安定化」と、「トランザクションの選別」という二つの別の機能が一緒になってしまっているのですが、この二つは本来一緒にある必要はありません。

Betterhashはこれらを分離し、実際にハッシュパワーを保有するプール利用者自体がどのトランザクションをブロックに格納するか自分で選択してプール運営者に提出できるようにする仕組みです。

他にもBetterhashでは現在使用されているStratumというマイニングプールソフトウェアを置き換え、サーバー負担の削減、効率化、結果としてのマイニングプールの収益性の向上などを期待できる部分もあるようです(ただし、これが実際どれくらいの実質的改善につながるかは具体的にはわからず)

端的に言えば、プール利用者がトランザクションを自分で選択できるより効率的なフォーマットを作ろう、というだけで、比較的シンプルな話なのですが、これによりプール運営者の権力を抑え、ハッシュパワーのコントロールをASIC保有者に戻すことで、マイニングプールの集権化の問題を大幅に改善できる、というものです。

Betterhashの課題

ただしBetterhashにはいくつか課題があります。Betterhashを採用することでプールユーザーは運営に対してトランザクションの提案をすることが出来ますが、そのブロックを受け入れるかどうかはプール運営者が結局最終的には決められるので、事実的拒否権があるということです。

Betterhashはユーザーにとって新たな選択肢の提供をしますが、実質的には効果はないのではないかという指摘もあります。また、マイニングプールの利用者のモチベーションの一つに、トランザクション選別やその他の面倒な作業をプールに委託して最適化してもらうという側面があります。

一方、Betterhashを利用するにはASIC保有者(ユーザー)は自身でフルノードを運用し、能動的にどのトランザクションを選択するか決定する必要があったり、ユーザーへの負担が増してしまいます。これをとっても特に小規模のユーザーは結局Betterhashのようなものは利用せず、プール依存は改善しないのではないか、という指摘もあります。

Blockstreamのマイニング参入は上手く行くのか?課題は?

というわけで、Blockstreamがマイニングに参加する、そしてBetterhashというプロトコルを採用してマイニングの分散化を進める、というニュースは中々インパクトはありましたが、少し追加で調べてみると、現状ではこのマイニングの取り組みは中々厳しいのでは、と思う部分も多々ありました。

まず、Blockstreamはビットコインソフトウェア開発に関してはエキスパート集団ですが、マイニングの世界はもっと泥臭い電力供給の確保やハードウェアや施設の最適化という熾烈な競争環境です。いくらBlockstreamと言えどもそこまで簡単に競争に勝つのは難しいと思います。その点ではBlockstream自体が単独で大きなハッシュパワーを保有するというシナリオは個人的には今はあまり想定していません。

一方、Betterhashは確かにマイニングプールの健全化、分散化を推し進めるきっかけになりえるので、個人的にはどちらかといえばBlockstreamの自前のマイニング施設やクラウドマイニングサービスより、Betterhashを採用したマイニングプール運営の方がむしろ界隈全体への意義は大きいのではないかと思います。ただしこちらもマイナーやプール運営者のインセンティブも考えると、浸透への課題も多そうです。

もう一つ重要な視点として、仮にBlockstreamが無視できないハッシュパワーを自前で握ったとします。これは、コア開発とマイニングの二つの機能に対してBlockstreamという一つの会社が重要な影響を持つということで、これはマイニングの「分散」の観点では必ずしもいいこととは自分は思いません。

ビットコインの分権構造には色んな意見がありますが、コア開発、マイナー、取引所、ユーザーなどがそれぞれある程度以上独立してそれぞれの利益を追求するのがネットワークの強固さにつながると自分は考えており、その点で今回のBlockstreamの発表には少しの矛盾を感じる部分もあります。

まあBlockstreamはそこまで理解した上で、マイニングのハッシュパワー保有も「そこそこ」でいい、という算段なのかもしれませんが。今回のニュースはマイニングの集権化に対するBlockstreamなりの取り組みで、Betterhashの採用など一定の効果が得られる可能性がありますが、マイニングと集権化の問題の解決はやはり根深いものだな、という率直な印象です。