マイニング計算を有用なことに使えばいい、は本当か?2013年からの10のプロジェクトを振り返る
ビットコインのマイニングは大量なハッシュ計算を行い、膨大な電力を使います。
マイニングの計算リソースを、がん研究やタンパク質解析、AIモデルの訓練に充てられればどれだけ素晴らしいことか。ビットコインを無駄だと感じている人ほど共感するでしょう。
2026年5月7日にKoji Higashiさんのツイートが話題を呼びました。
これをビットコインと言います https://t.co/NrNHQ6D4pA
— Koji Higashi (@Coin_and_Peace) May 7, 2026
本投稿に対し「ビットコインは意味のないハッシュ計算で成立しているので、意味のある計算にしたらビットコインよりも素晴らしいものになるのではないか」「SHA256よりもLLM演算の方が有意義」というビットコインの計算の無意味性に関する投稿が散見されました。
実は、同様に考える開発者や研究者は世界中にいて、2013年頃から様々なプロジェクトが立ち上がってきました。本稿では、これまでマイニング計算を有用に活用することを目指した事例10選を紹介します。当然、アルトコインを勧める趣旨ではありませんのでご考慮ください。
挑戦については否定しませんが、過去の挑戦を知っていた方が新しい挑戦に臨めるでしょう。そして最後に、有用な計算を取り入れること自体の構造的な問題点についても触れます。
科学計算に充てようとした試み
有用な計算ということで、思いつきやすいものは科学への貢献でしょう。2013年頃から数々の有用な計算への挑戦があります。
- Primecoin(2013年)
- Riecoin(2014年)
- Gridcoin(2013年〜)
- Curecoin・FoldingCoin(2014年)
- Coinami(2016年)
それぞれどのようなプロジェクトかを解説します。
Primecoin(2013年)

Primecoinは2013年7月にローンチした、マイニングの電力を素数の探索に充てようとした試みです。開発者はSunny Kingというハンドルネームの人物です。
仕組みはビットコインに近くマイナーが競争しながらブロックを生成します。ビットコインがハッシュ計算をするのに対し、Primecoinは特定のパターンを持つ素数の連鎖を探します。
ただし探せる連鎖は、現在のブロックのハッシュ値の倍数を起点とするものに限られます。数学者が調べたい領域を自由に探索できる仕組みではありません。コミュニティメンバーが運営していたprimes.zoneには4,599,221の連鎖と47,334,011個の素数が記録されていましたが、現在は閉鎖しています。
発見された素数が数学研究で活用されたという記録も確認できませんでした。活用された記録がない以上、ビットコインのハッシュ計算の方がシンプルなルール設計だと筆者は考えます。
現在も約1分に1ブロックが生成されており、CoinMarketCapでは2つの取引所で取引できることが確認できます。
Riecoin(2014年)

Riecoinは2014年にローンチした、Primecoinと同様に素数をマイニングに活用しようとしたプロジェクトです。Primecoinが特定のルールで連続する素数の連鎖を探すのに対し、Riecoinは一定のパターンで密集した素数の群(constellation)を探します。たとえば7つの素数が非常に近い間隔で並ぶ組み合わせがその一つです。
素数の分布に関する未解決問題であるリーマン予想の反証につながる手がかりになるかもしれないとされていましたが、数学界からの評価は限定的でした。Primecoinと同じ構造的な問題も抱えており、難易度を一定に保つには発見する素数の大きさに上限を設ける必要があります。
現在も稼働しており、発見された素数群を閲覧できるConstellation Explorerも確認できます。
Gridcoin(2013年〜)

GridcoinはPoS(Proof of Stake)ブロックチェーンの上に、科学計算への貢献を報酬として乗せた設計です。BOINC(Berkeley Open Infrastructure for Network Computing)というプラットフォームを通じて、がん研究やタンパク質解析、宇宙探査など30以上のプロジェクトへの貢献量に応じてコインが報酬として上乗せられます。
ただし研究報酬を受け取るには、あらかじめGRCを購入してPoSに参加している必要があります。科学に貢献したい人が、まずGRCを買わなければ報酬を受け取れないとも見られます。
またBOINCへの貢献量はBOINCプロジェクトのサーバーが発行するクレジットをGridcoinがそのまま受け取る仕組みで、Gridcoinネットワーク自体に検証手段はありません。貢献量を虚偽申告してもコンセンサスは崩れないため脆弱です。
さらに、BOINCは2002年から稼働しており、論文発表などの成果のほとんどはGridcoin登場以前から積み上げられてきたものです。
Curecoin・FoldingCoin(2014年)

Curecoin、FoldingCoinいずれもスタンフォード大学発のタンパク質折り畳みシミュレーション「Folding@home」への参加で報酬を得られるとしたプロジェクトです。Gridcoinと同様に、貢献量をブロックチェーン自体が検証する手段はありません。
- Curecoin:PoSチェーン、Folding@homeへの貢献を報酬に乗せる
- FoldingCoin:チェーンなし、ビットコイン上のCounterpartyトークン、Folding@homeへの貢献量に応じて月次で配布
加えて2020年にAlphaFold2(DeepMind)がAIでタンパク質の立体構造予測問題をほぼ解決し、2億種類以上の構造を無償公開しました。Folding@homeはその後、動的シミュレーションにフォーカスを移して現在も稼働していますが、当初の主要な問題の一つをAIが別の方法で解いた形です。
Folding@homeという外部プラットフォームに完全依存しており、何を計算するかを自分たちで決めることができません。現在Curecoinの公式サイトは存在するものの取引はほぼゼロ、FoldingCoinは公式サイトも機能しておらず事実上終了しています。
Coinami(2016年)

次世代シーケンサーで生成されるDNAデータのマッピング計算をPoWとして使う提案です。ゲノム解析の計算コストが急増していた時期に、トルコのBilkent大学の研究チームがarXivで発表しました。
仕組みとしては、マイナーがDNAデータを権威機関のサーバーからダウンロードし、リファレンスゲノムへのマッピング計算を行って結果を返します。計算結果はPoWとしてブロック生成に使われます。
ただしプロトコルの設計上、DNAデータを供給・管理する中央機関の存在が不可欠で、分散化と両立しません。プロトタイプは公開されましたが、実際の暗号資産としてローンチされることはなく、論文止まりで終わっています。
AIに充てようとした試み
AI関連の計算に充てる試みとして、以下の2つを取り上げます。
- Coin.AI(2019年)
- Bittensor(TAO、2021年〜)
Coin.AI(2019年)

ディープラーニングモデルの訓練をPoWとして使う構想で、スペインのマドリード・カルロス3世大学の研究者がarXivで発表した論文です。一定の精度を超えたAIモデルを生成したときにブロックを採掘できる設計で「AIの民主化」を目標に掲げていました。
問題点は2つあります。
- 問題1:訓練するモデルの問題をネットワークに供給する仕組みが必要。Coinamiと同様に、問題設定で中央機関へ依存してしまう
- 問題2:問題の種類によって必要な計算量が大幅に異なるため、難易度調整が難しい
論文として発表されましたが、実装・ローンチには至っていません。
Bittensor(TAO、2021年〜)

AIモデルの推論品質に応じて報酬を得る「Proof of Intelligence」を掲げ、分散型AIサービスプロトコルとして実際に稼働しています。マイナーがGPUでAI推論を実行し、バリデータがその品質を評価してTAOを配分する仕組みです。開発者はAPIを通じてAI推論を利用し、TAOまたは法定通貨で使用量に応じて支払います。
今回取り上げた事例の中で時価総額はトップであり、128のサブネットで2026年第1四半期だけで4300万ドルの収益を記録するなど実際に使われているサービスとして成長しています。ただしブロックチェーンのセキュリティはステーク加重に基づく「Yuma Consensus」であり、AIへの貢献とコンセンサスは切り離されています。またトークン発行による補助金がトップサブネット1つだけで年間5200万ドルに達するなど、収益が補助金を上回らない状況は続いています。
LLMの演算がSHA256より有意義と考える方にとって、Bittensorはすでに存在する答えの一つでしょう。おまけにTAOの最大発行枚数は2100万枚、半減期付きです。まさに意味のある計算をする『ビットコイン2.0』かもしれません!無意味な計算をするビットコインを批判する暇があれば、Bittensorに貢献すると世界がより良くなるのかもしれませんね。
ただしBittensorはAI推論インフラを目的としており、ビットコインが目指す貨幣としての役割とは根本的に異なります。「有用な計算」自体が目的となっているように見えます。
またAI推論への需要は外部市場に依存しており、技術革新によって需要縮小または供給過多になればマイナーも一斉に離れてしまいます。タンパク質構造予測においてAlphaFold2が分散コンピューティングとは別の方法で解を出したように、有用な計算の「有用性」が失われるリスクは常に存在します。
「Proof of Useful Work(PoUW)」を掲げる試み
近年、「Proof of Useful Work(PoUW)」という言葉を掲げるプロジェクトが増えています。
PoUWはPoWのハッシュ計算をコンセンサス以外の目的を持たない「無意味な計算」と捉え、計算を科学シミュレーションなど実世界に追加的な価値をもたらすものに置き換えることを目指す考え方です。
PoUWという言葉の学術的な初出は2017年のBall、Rosen、Sabin、Vasudevanによる論文「Proofs of Useful Work」で、直交ベクトル問題・全点対最短経路・3SUMといった計算問題をブロックチェーンのPoWに使う方法を提案しました。
以下の2つを取り上げます。
- Internet Computer(ICP、2021年〜)
- Flux(2018年〜)
Internet Computer(ICP、2021年〜)

2016年設立のDFINITY Foundationが開発し、2021年5月にローンチした分散型クラウドを目指したブロックチェーンです。公式Wikiでも「Proof of Useful Work」と記載があり、ノードがキャニスターと呼ばれるスマートコントラクトを実行することでアプリやウェブサービスを動かします。AWSなどのクラウドコンピューティングを分散ノードで置き換えることを目指したプロジェクトです。
ただしノードは誰でも参加できる形ではなく、NNS(Network Nervous System)というDAOによって審査・任命されます。実際にユーザーが使うアプリを動かす以上、ノードの品質が低いとサービスが成立しないためです。有用な計算には品質管理の責任が伴い、その責任を担保するために許可型の設計を選択していると考えられます。
「有用な計算を担保するため管理が必要となり、集権化される」という形で、PoUWには一定の集権性が生じてしまいます。
Flux(2018年〜)

FluxはAWSなどの中央集権的なクラウドサービスの代替を目指した分散クラウドインフラです。当初はZelCashという名称でGPUによるPoWを採用していましたが、2025年10月にPoUW v2へ移行しました。
PoUW v2ではGPUマイニングを廃止し、実際のアプリ処理を担うFluxNodeのみがブロック生成に参加します。動画エンコード、AIモデルの推論、ウェブアプリのホスティングなどを処理した対価として利用料を受け取り、それが報酬の一部になります。実用とブロックチェーンが直接つながっている点で、他の事例と比較しても外部経済圏への依存性が小さいと考えられます。
ただしPoS的な側面があります。ノード参加にはFLUXを担保としてロックする必要があり、ロック量が多いほど上位ティアに参加でき報酬も増える仕組みです。資本が集中するほど有利になる構造は残っています。またブロック報酬(トークン発行)のウェイトがまだ大きく、利用料収入だけで採算が取れるかは実績が浅く不明です。
有用な計算を取り入れること自体への疑念
「有用な計算でブロックチェーンを動かす」というアイデア自体は、直感的にビットコインよりも良いものと感じられます。しかし2013年以降の試みを振り返ると、有用な計算を含めることに構造的な問題があると考えます。
「有用な計算には」以下のようなしがらみが生じます。
- 有用性の評価
- 有用性の担保
- 有用性を享受する外部ニーズ
有用性の評価
ビットコインのPoWの場合、Targetと呼ばれる値よりも低いハッシュ値を探索します。「低い」という事実は誰でも同じ評価となり、プログラム化が可能です。
しかしながら、「有用である」という評価は人によって異なるので評価者が別で必要となります。人為的な評価は将来的な集権化や権威化を招く要因だと考えます。
集権化を防ぐためには権利を分散化する必要があります。公平な分散化のためにはステーキングで権利の重み付けを行います(例えば、Bittensorはバリデータが品質を評価します)。有用性を評価するためにはガバナンスの課題が生じるとも言えます。
有用性の担保
有用性が目的となっている場合、有用性を必ず担保できるような設計が必要です。結果的に、品質を担保するためにはInternet Computerのような許可制となってしまいます。
また、有用な計算を継続するためには適した問題を提供し続ける必要があり、問題提供者が特定の主体であれば単一障害点あるいは集権化の要因となります。
「有用性の評価」とも関連しますが「これは有用である」という状況を維持する必要があり、維持のためには評価者や許可者へのコストがかかるため別のインセンティブ設計が必要となり、変数が増加して複雑になってしまいます。
有用性を享受する外部ニーズ
有用性への目的意識が強いと外部への価値提供に経済圏が依存してしまい、ニーズの増減によってマイナー等の参加意思が不安定となってしまいます。
最も問題なのは「有用性の無用化」というリスクです。タンパク質構造予測においてAlphaFold2が別のアプローチで解を出したように、単なる計算リソースとは別の方法で問題自体が解決され、有用性が失われてしまう可能性があります。
現在「有用である」ことが将来も変わらず「有用である」とは限りません。無用化してしまった場合、新たに有用な計算先を探す必要があり、長期的に考えると有用性に依存することは一つのリスクであるとも言えます。LLMの演算が現在有用だとしても、将来的に有用であることは約束されません。
一つの見方として、ビットコインのマイニングの影響でGPUの需要増加と発展、再生可能エネルギーの活用などある意味有用であると考えられます。しかしながら、ビットコインのマイニングの目的はブロックを生成してトランザクションを通すことであり、GPUの発展や再生可能エネルギーへの寄与は目的ではありません。
まとめ:計算の有用性は長期的なリスクにもなり得る
2013年以降、素数、タンパク質、DNA、ディープラーニングと、マイニングの計算に意味を持たせようとした数々の試みは続いてきました。中には一流の研究者による真剣な提案も含まれていました。
今判断してしまうのは時期尚早かもしれませんが、有用な計算を取り入れたビットコインの上位互換のような優れた設計は依然としてないと考えます。そもそも、計算に有用性がある時点でプロジェクトの目的意識が異なってしまいます。
また、有用な計算を取り入れることのリスクにも触れました。有用性の評価、有用性の担保で別のコストや集権性が生じる可能性があります。そして、有用性に依存してしまうと別のアプローチで問題が解決された場合に有用性を失い、エコシステムが崩壊するリスクが常に付きまといます。
本稿では有用な計算を取り入れたプロジェクトの事例紹介でしたが、ビットコインのマイニング計算に有用性がある場合どのような力学が働くか、懸念があるか、PoWの条件については別の機会に整理しようと思います。
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