2026年6月30日、日本ビットコイン産業は広島学院中学校・高等学校のゼミ講座「Bitcoin学」に出張講義として招かれました。この授業を5年間にわたって担当してきたのが、同校で数学を教える尺田慶一先生です。

当日の授業の様子は以下の記事で詳しくレポートしています。

高校の「Bitcoin学」ゼミで出張授業を行いました
ビットコイン研究所 / イベントの記事:高校の「Bitcoin学」ゼミで出張授業を行いました

講義後、ビットコイン研究所所長の守屋が尺田先生にインタビューを実施しました。高校生とビットコインを結ぶ「Bitcoin学」の実態に迫ります。

また、インタビューは動画にもしていますので、ご興味があればYouTubeの方もご覧ください。

きっかけは「0歳児へのお年玉」

守屋:そもそも、尺田先生がビットコインを知ったきっかけは何だったのでしょうか。

尺田:知ったきっかけ自体は、皆さんと同じようなものだと思います。バブルの頃にニュースで儲かった人がいると見た程度で、当時は「ふーん」くらいの感覚でした。

尺田:深く関わるようになったのは2020年です。子どもが生まれて初めてのお正月を迎え、お年玉を渡そうと思ったのがきっかけでした。0歳の子にお札を渡してもわからないだろうから、どうせなら違うものを渡そうと考え、たどり着いたのがビットコインでした。

尺田:最初はお年玉として買っただけだったのですが、調べれば調べるほど面白くなってしまって、止まらなくなりました。管理主体がいないという点も、お金としての側面も、いろんな意味で今までにないものだと感じています。

週1コマの探求授業「Bitcoin学」

広島学院高校には、高校2年生が自分の探求したいテーマを1つ選び、約1年かけて取り組む授業があります。テーマは生徒だけでなく教員自身も関心のあるものを持ち込む形式で、原発廃炉学や沖縄戦をたどる授業なども並んで開講されているようです。

守屋:授業では何を教えているのですか。

尺田:「Bitcoin学」というと、体系立った専門的な内容をやっていると誤解されがちなのですが、実際はもっとふんわりしています。ビットコインの仕組みや、それがなぜ重要なのかという基本的な話を押さえつつ、あとはニュースの読み解きです。最近はステーブルコインの話題も含めて、クリプト関連のニュースが増えているので、それを正しく読み解くための勉強会という位置付けでやっています。

授業前半は尺田先生が話す時間が長くなりますが、後半は生徒に任せる形式とのことです。生徒が気になったニュースや、ビットコインに使われている技術を1つピックアップして発表し、それに対して尺田先生も生徒の1人として質問や指摘をしていきます。最近の発表テーマには「JPYC」や、ビットコインでよく使われるハッシュ関数「SHA-256」を手計算してみるといった内容もあったそうです。

受講者数はこの5年で変動があり、暗号資産バブルだった2021年頃は非常に人気で高倍率(約50人)だった一方、現在は8人程度まで落ち着いているとのことです。

尺田:これはビットコインのインパクトの違いだと思います。昔は異質なものとしてインパクトが強かったのですが、今は生徒たちの中にも浸透してきて、あまり強い刺激のあるコンテンツではなくなってきたのかもしれません。それ自体は良いことだとも思っています。

「厳密性より全体感」を優先する教え方

尺田先生は自身を技術者ではないとした上で、高校生にわかりやすく伝えるための工夫を説明しました。

尺田:どうしても細かい部分を切って話さなければいけないところがあります。厳密性というよりは、ざっくりとした全体感を優先しています。たとえばライトニングネットワークの話であれば、途中で送金経路上のお金が盗まれることはない仕組みといった細部は省いて、「お金が奪われることはありません」というところまでで一旦区切る、という形です。

生徒の反応が良いテーマについては、金額の大きさに関わる話だといいます。

尺田:NFT(JPEG画像に何百万ドルの価格が付く)の話など、金額のスケールが大きい話は食いつきがいいですね。話が派手だと素直に驚いてくれます。

一方で、ビットコインの必要性そのものを伝える難しさも感じているそうです。

尺田:日本が平和すぎるということもあると思うのですが、本当にビットコインを必要とする場面があるのかを実感として伝えられているかというと、あまり自信がありません。

守屋:実体験としてないので、どうしても抽象的な理解にとどまってしまう部分があると思います。日本でライトニング決済などの実体験を増やすことは、日本ビットコイン産業としてやるべきことだと考えています。

生徒のクリプトの感想を聞いて感じた「不思議」

5年間で印象に残っているエピソードを尋ねると、尺田先生は生徒がアルトコインやDapps等のプロジェクトについて漏らした感想を挙げました。

尺田:ビットコイン以外のクリプトプロジェクトは、創業者のような管理主体がいて、色々と考えて設計されています。良いものも多分あるはずなのですが、この5年間だけを見ても、うまくいかずに終わっていったものを生徒と一緒に見てきました。あるとき、生徒が「ビットコイン以外の方がみんな頑張って設計しているはずなのに、結局ダメになってしまったね」としみじみとした感想を漏らしていて、それを聞いて私も不思議だなと感じました。

守屋:頑張ったのに実らないこともありますよね。

「教えるものではない」という前提と意義

学校でビットコインを教える意義について、尺田先生は独特の距離感を語りました。

尺田:毎日思っているのですが、ビットコインというのは教えるものではないと思っています。自分で調べて学ぶものだという色が強いですし、「Don't Trust, Verify」という考え方が、そもそも「先生が教える」という形とは相性が悪いんです。教壇に立って話している人が、何でも知っている存在のように見えてしまう現象は、学校という場では絶対に起きてしまいますから。

その上で、授業を続ける意義についてはこう説明します。

尺田:ただ、触れさせる機会があるというのは大事だと思っています。特に2020年頃は、インターネットで調べても怪しい情報や投資サイトへの勧誘ばかり出てきていました。正しく調べることが難しいのであれば、そこは補助線をつけてもいいのではないかというのが、この授業を始める1つのきっかけでもあります。

今回、日本ビットコイン産業への出張講義に至った背景については、生徒に「尺田先生1人の意見」として受け取られてしまうことへの懸念があったと語ります。

尺田:私だけでなく、ほかにもビットコインが好きな人がいるということを見せるのは大事だと思っています。もっと色々な人を巻き込んで、今後の授業をやっていきたいと考えています。

ライトニングを使う場所を求めて東京へ

尺田先生は、Tokyo Bitcoin Base(TBB)を訪れ、実際にライトニング決済でコーヒー豆を購入した経験も語りました。

尺田:ライトニングがあることは知っていても、広島には実際に使える場所がほとんどありません。実際に決済してみたいと思い、TBBまでコーヒー豆を買いに行きました。TBBができてからは、X上でイベントの告知を見る機会も増えて、いいなという気持ちがどんどん強くなっていました。今回の出張講義のきっかけも、TBBのイベント告知メールでした。

学校教育とビットコインの距離

情報科の教科書にもブロックチェーンという言葉自体は登場するようになったものの、その扱いは限定的だといいます。

尺田:「ブロックチェーンは管理主体があって早く送金できるシステムである」といった、誤りの選択肢として出てくる程度のものです。技術的な話題は多少あっても、価値とは何かという踏み込んだ話はほとんどありません。

尺田:情報の教科書には「新しい技術」という書き方がされていて、新しい技術という言葉自体にネガティブな響きがないので、何でも解決してくれるもののように見えてしまうのも良くないと思っています。ただ、きちんと解説するには授業の時間も足りません。

守屋:たぶん、教科書を作っている方にもそこまでの理解がないのではないかとも思います。そういう点は難しいなと思いつつ、「Bitcoin学」の授業によってビットコインをより深く知る機会が得られると考えます。

「物の価値とは」を考えるきっかけに

授業を通じて生徒にどのような価値観の変化を期待しているかという問いに、尺田先生はこう答えました。

尺田:物の価値とは何かという問いについて考えるタイミングは、こういう機会がないとなかなかありません。そのきっかけ作りができればいいと思っています。

守屋:高校でこう言った機会を得られるのは非常に貴重だと思います。最後に何か一言あればお願いします。

尺田:ずっと1人で授業の中でやってきたので、ビットコインを通じて人とつながることができて嬉しいです。ありがとうございました。

おわりに:これからも続くBitcoin学

今回は、広島学院中学校・高等学校の高校2年生にBitcoin学を5年間教えている尺田先生にインタビューさせていただきました。

個人的にはゼミ講座という選択授業があること自体が生徒の視野を広げる素晴らしい機会だと思いました。その上で「ビットコイン」という多くの大人が知らず、かつ今後の世界において重要なテーマに触れられることはとても羨ましく感じます。

また、ビットコインだけに縛ることなくクリプトやステーブルコインにも触れ、先生と生徒の間で率直な意見や議論を行う授業形式は、生徒自身が批判的に物事を捉えられるきっかけになると考えます。尺田先生が懸念されていた「授業がDon't Trust, Verifyではない」という点についても、生徒の中に「Don't Trust, Verify」の考え方が授業を通じて身に付いていくのではないかと思いました。

もし、教育関係者の方など尺田先生のBitcoin学に興味がある方がいれば、ビットコイン研究所のお問い合わせフォームから連絡をいただければお繋ぎすることも可能です。

ビットコイン研究所および日本ビットコイン産業では、今後も多くの方にビットコインを知ってもらい、使ってもらえるような取り組みを継続していきます。