Lightning上のドルステーブルコイン:どのように動き、誰に依存しているのか
ドルステーブルコインの決済量は、ビットコインのLightning Network(以下、ライトニング)よりはるかに多く、いくつものプロジェクトがそのドルをライトニングに持ち込もうとしています。本記事では仕組みと現在実際に動いているもの、そして利用者や事業者が使うために何に頼る必要があるのかを説明します。
この目的のために作られたプロトコルはTaproot AssetsとRGBの2つです。2つに共通する考え方はトークンの記録を保有者自身が持ち、ビットコインには記録の暗号学的な指紋だけを保存するというものです。この設計には見落とされやすい実務上のコストがあります。ウォレットのシードフレーズだけではトークンを復元できず、保有者はトークンのデータそのものもバックアップしなければなりません。
2つのプロトコルはライトニングを渡る方法が異なります。Taproot Assetsはネットワークの端でステーブルコインをビットコインに交換します。そのため、どのライトニングユーザーにも支払えますが交換に応じるノードに依存します。RGBはステーブルコインを経路の最後まで運びます。交換は不要ですが、経路上のすべてのノードがRGBソフトウェアを動かす必要があります。しかも、RGBの開発者はどのバージョンが正しいかをめぐって2つのグループに分かれています。USDTはすでにTaproot Assets上で動いています。Tetherが支援する企業は2026年11月下旬にRGB上でUSDTを立ち上げる予定で、ライトニング対応は2027年に続く計画です。
主な結論はどの設計も「誰かを信頼する必要」をなくしてはおらず、信頼を置く相手が違うだけだということです。Taproot Assetsは交換ノードと1社のソフトウェアに頼ります。RGBは経路上のすべてのノードに頼ります。そのすべての上には残高の凍結と償還するトークンの選別ができるステーブルコインの発行体がいます。さらに、こうした活動はライトニングの公開統計には現れません。関係するチャネルが設計上隠されているからです。そのためライトニング上を何ドル分が動いているのかは現時点で誰にも言えません。各方式の比較は第6章の表にまとめています。
用語集
ビットコインやライトニングの予備知識がない読者向けの簡単な定義です。プロトコルに詳しい方は読み飛ばしてください。
- Lightning Network: ビットコインの上に作られた決済ネットワークです。すべての支払いをビットコインのブロックチェーンに記録せず、2者間の支払いチャネルの網を通して送ることで即時かつ非常に低いコストで決済します。(River ResearchのJBIによる日本語訳)
- チャネル: 2者が共有する残高で、1回のオンチェーンのビットコイン取引で資金を入れます。チャネルが閉じられるまで、チャネル内の支払いによって残高の分け方が変わっていきます。(Basis of Lightning Technology (BOLT) 2: channel management)
- コミットメントトランザクション: チャネル内で誰が何を持っているかを記録する、まだブロードキャストされていない現在のビットコイン取引です。支払いのたびに新しいものに置き換わります。(BOLT 3)
- Hashed Timelock Contract (HTLC): 1つの支払いを複数のチャネルにまたがって安全に送るための仕組みです。中継ノードは支払いを転送した場合にだけ報酬を受け取れます。転送しなければ資金は送り手に戻ります。(BOLT 3)
- ゴシッププロトコル: ライトニングのノード同士が、どのチャネルが存在するかを互いに知らせるための配信方式です。これにより、送り手が知らないノードを通る経路でも支払いを送れます。(BOLT 7)
- 非公開(プライベート)チャネル: ゴシップに意図的に載せていないチャネルです。2人の所有者の間では通常どおり使えますが、第三者や公開エクスプローラーには存在そのものが見えません。
- クライアントサイド検証: トークンの記録を取引する当事者の手元に残す設計です。ビットコインには記録への小さな暗号学的コミットメントだけが載ります。ネットワーク全体がすべてを検証するのではなく、各当事者が自分に関係する履歴を検証します。(RGB and client-side validation)
- Universeサーバー: Taproot Assetsで、トークン保有者が必要とする証明記録を保存して提供する公開のリポジトリです。特別な権限はなく、誰でもデータをビットコインと照合して確認できます。(Universes)
- エッジノードとRequest for Quote (RFQ): エッジノードはビットコインとトークンの両方を保有し、支払いの途中で一方を他方に交換します。RFQは支払いを送る前にエッジノードが有効期限つきの交換レートを提示する手順です。(Edge nodes、RFQ)
1. なぜドルをライトニングに載せるのか
ステーブルコインとは発行体が、決まった額の通貨(通常は1米ドル)と引き換えに償還することを約束するトークンです。ステーブルコインはブロックチェーン上で価値が動く主な手段になりました。Forbesは2026年3月までの1年間のステーブルコインの取引量を、約33兆米ドルと推計しています。TetherのUSDT単体の流通量は約1,840億ドルで、約3,160億ドル規模のステーブルコイン市場の約58%を占めます。その供給のほぼすべては主にTronとEthereumという別のブロックチェーン上にあります。
これに比べると、ライトニングは小さな存在です。公開チャネルに入っているビットコインは、2025年12月28日に5,851ビットコイン(BTC)でピークを付けました。mempool.spaceが公表している最新の数字では、2026年8月30日時点で3,754 BTCです。1BTC=10万ドルで計算しても3,754 BTCは約3億7,500万ドルにすぎず、USDTの供給量の約0.2%にとどまります。
この差が関心を集める理由です。ライトニングは高速で低コストの決済を提供し、ステーブルコインはほとんどの利用者や店舗が望む価格の安定を提供します。両者の組み合わせは魅力的ですが、ライトニングはもともとビットコインという1つの資産だけを運ぶ設計でした。そこで本記事では次の3つの問いを立てます。
- ビットコインのために作られたネットワークはどうすればドルトークンを運べるのか。
- 現在実際に動いているものは何で、ドルを発行しているのは誰か。
- 支払いを完了させるために、送り手や事業者は誰を信頼する必要があるのか。
Taproot AssetsとRGBはこの目的のために作られた2つのプロトコルで、本記事の大半はこの2つを扱います。ただし、ドルがビットコインに届く方法はこの2つだけではありません。Liquidは企業連合が運営するサイドチェーンで、数年前からTetherのドルを扱っています。Sparkは比較的新しいプロジェクトで、独自のドルを発行してライトニングとの境界で交換します。この2つも以下の比較に含めます。
2. ビットコインはどうやって2つ目の資産を運べるのか
ビットコインには2つ目の資産を発行する機能が組み込まれていません。方法の1つとして、すべてのビットコインノードが保存して検証するトークン台帳を追加することが考えられます。しかし、それでは利用者の大半に不要なデータの負担をネットワーク全体に負わせることになります。クライアントサイド検証はこれを避けます。トークンの記録は保有者の手元に残り、ビットコインには記録の指紋の役割を果たす小さな暗号学的コミットメントだけが保存されます。
送り手がこの種のトークンで支払うとき、受け手にトークンの履歴も渡します。履歴は発行から今回の支払いまでの分です。受け手のウォレットはその履歴を、ビットコインのブロックチェーンですでに承認されているコミットメントと照合します。すべて一致すればトークンは本物です。ビットコインのノード自身はトークンを目にしません。
ビットコイン研究所はRGBがまだ初期段階だった2020年にこの仕組みを解説しており、仕組みはそれ以来変わっていません。2024年に出たビットコイン上のプログラミングの概観では、クライアントサイド検証は単一のプロトコルではなく設計の一群として扱われています(Programming on Bitcoin)。

記録を固定する2つの方法
Taproot AssetsとRGBはこの考え方を共有していますが、指紋を固定する方法が異なります。
RGBはシングルユースシールと呼ぶ仕組みを使います。トークンの状態は特定のビットコインのアウトプットに結び付けられ、そのアウトプットを使うことで状態をちょうど1回だけ変更できます。ビットコインはすでに同じアウトプットの二重使用を防いでいるので、トークンの二重使用も防がれます(What is RGB)。
Taproot Assetsは2021年のビットコインのTaprootアップグレードで取引アウトプット内に使えるようになったツリー構造に、コミットメントを置きます。このプロトコルは最初Taroという名前で発表され、後に改名されたため古い記事では前の名前が使われています。
シードフレーズだけではトークンを復元できない
クライアントサイド検証が生む実務上の影響のうち、最も重要なのはバックアップです。通常のビットコインウォレットでは、シードフレーズ(12語または24語のリスト)があればすべてのコインを復元できます。コインが公開ブロックチェーンに記録されているからです。クライアントサイド検証のトークンは違います。ブロックチェーンには指紋しかないので、保有者が記録を保管しなければなりません。
両プロジェクトともこの点を明確に述べています。Lightning LabsのTaproot Assets向け安全上の注意書きにはシードフレーズは「発行または受け取ったアセットを復元するには不十分」であり、バックアップなしでソフトウェアのデータベースを削除すると資金が失われると書かれています(safety.md)。TetherのウォレットSDKもRGBモジュールについて同じ警告を出しています。シードフレーズでトークン残高が復元されると思い込んではならず、データディレクトリのバックアップを保管して復元テストもしておく必要があります(RGB wallet guide)。
Universeサーバーは保有者が公開の場所から証明記録を取り戻せるようにして助けになりますが、バックアップの必要性がなくなるわけではありません。これらのトークンを保有する事業者にとって、トークンデータのバックアップは鍵の保護と同じくらい重要です。
3. ステーブルコインの支払いはどうやってライトニングを渡るのか
2つのプロトコルはどちらもライトニングを使えますが、取るアプローチは正反対です。3つ目のシステムであるSparkは自分のドルをライトニングには一切載せず、境界で交換します。
Taproot Assetsはネットワークの端で交換する
Taproot Assetsでは、トークンはビットコインと同じ資金アウトプットの中でライトニングチャネルに保持されます。そのため、こうしたチャネルを開くオンチェーンのコストは通常のチャネルを開く場合と変わりません。トークンのチャネルはエッジノードにつながります。エッジノードはトークンとビットコインの両方を持ち、ネットワークのほかの部分とも通常のチャネルを維持しています。
利用者が支払うとエッジノードが支払いの途中でトークンをビットコインに交換します。したがって、トークンが動くのは最初のホップ(送り手からエッジノードまで)か最後のホップ(エッジノードから受け手まで)だけです。間のホップはすべて通常のビットコイン決済です。その結果、ドルトークンを持つウォレットは通常のライトニングインボイスに支払えます。受け手はトークンが関わったことを知る必要がありません。店舗側は逆のこともできます。ビットコインのインボイスを発行し、エッジノードが支払いを交換したあとにドルトークンを受け取る形です(Edge nodes)。
この到達範囲の対価は交換のスプレッドと、両方の資産を十分に持つエッジノードへの依存です。
価格の提示が、交換するノードを守る
支払いを組み立てる前に送り手が見積もりを要求し、エッジノードが交換レートと有効期限を返します(RFQ)。トークンをビットコインに交換するノードは支払いが決済されるまで価格変動のリスクを負います。レートと期限を決めていなければ、送り手は支払いを開始して待ってから為替レートが自分に有利に動いた場合にだけ完了させることができてしまいます。送り手はノードの負担で無料のオプションを持つことになります。
ビットコイン研究所はプロトコルの発表から2日後の2022年4月にこの弱点を指摘しました。有効期限の短い見積もりはリスクを抑えますが、なくすことはできません。見積もりの期限が切れる前に価格が動くことはありえ、その変動はエッジノードが負担します。

RGBは資産を最後まで運ぶ
RGBは反対のアプローチを取ります。トークンの状態変化を各チャネルのコミットメントトランザクションの中に記録するので、トークンそのものが経路全体を移動します。経路を通る支払いはビットコイン決済と同じHashed Timelock Contractの仕組みを使います。各ホップがトークン額つきのアウトプットを追加し、そのアウトプットを請求した者がビットコインとトークンの両方を受け取ります(RGB Lightning roadmap)。
また、ダストリミットと呼ばれる一定額未満のビットコインアウトプットは使えないため各支払いには少額のビットコインも添える必要があります。リファレンスのノードソフトウェアはrgb-libライブラリとLightning Development Kit (LDK)の改変版の上に作られています。
この設計には交換のスプレッドもエッジノードもありません。代わりに、経路上のすべてのノードがRGBソフトウェアを動かす必要があります。RGBウォレットを入れただけの店舗はそれだけではまだRGBの支払いを受け取れません。送り手と受け手の間の経路上のすべてのノードが先にRGBに対応していなければなりません。
Sparkはライトニングに届く前に交換する
Sparkは独自のドルトークンUSDBを持つ別のビットコインのシステムです。USDBはBraleが発行しています。USDBはSparkの内部にしか存在せず、ライトニングチャネルの上を通ることはありません。Sparkの利用者がライトニングのインボイスに支払うと、サービス提供者がUSDBをビットコインに交換して通常のビットコイン決済を送ります。受け取りの場合は反対向きに交換されます(Spark's landscape note)。
Spark自体の仕組みは本記事の対象外ですが、ビットコイン研究所が2026年6月に解説しています。

それでも、比較には意味があります。別々のグループが別々のドルを発行しながら、どちらも既存のライトニングネットワークに新しい資産を理解させることを求めない道を選びました。それを求める設計はRGBだけです。RGBの普及が送り手と受け手だけでなく経路上のノードにも左右されるのはこのためです。
4. 現在動いているもの
下の表は2026年11月初旬時点の各選択肢をまとめたものです。特に断りがない限り、状況の欄は各プロジェクト自身の説明に基づいています。
| 選択肢 | ドルトークン(発行体) | 状況(2026年11月) |
|---|---|---|
| Taproot Assets | USDT (Tether) | USDTの統合は2026年3月に完了。ソフトウェアは依然としてアルファ版の扱い |
| RGB 0.11.1 (RGB Protocol Association) | ブリッジされたUSDT (Utexo。他のネットワークにロックされたUSDTが裏付け) | Associationによると、プロトコルは2025年7月からビットコインのメインネットで稼働。USDTはテスト中。Utexoによると、一般公開は2026年11月28日、ライトニング対応は2027年初頭の予定 |
| RGB 0.12 (RGB-WG) | 確認されたものなし | 開発者は本番利用可能と宣言。Associationによると、メインネットでは稼働していない |
| Spark | USDB (Brale) | Sparkによると、2026年1月から稼働 |
| Liquid | L-USDT (Tether) | 数年前から流通 |
Taproot Assetsは実装が1つだけで、依然としてアルファ版の扱い
Taproot Assetsは1社による1つの製品です。ソフトウェアのtapdは同社のライトニングノードソフトウェアであるLightning Network Daemon (LND)と一緒に配布されています。現行のバージョン0.8は2026年6月にリリースされ(v0.8)、10月までメンテナンスリリースが続いています。
仕様は7つのドラフト段階のBitcoin Improvement Proposal (BIP)として存在します。公式のBIPリポジトリにはマージされず、Lightning Labsのエンジニアの個人ブランチに置かれています。実装が1つしかないため、独立したソフトウェアが対応できるかどうかはまだ試されていません。Lightning Labs自身のインストールガイドもソフトウェアをアルファ版と説明しており、メインネットでの利用は利用者の自己責任だと明記しています(get tapd)。
RGBは互換性のない2つのバージョンに分かれている
RGBは単一のプロトコルとしては評価できません。開発者が互換性のないソフトウェアを持つ2つのグループに分かれているからです。
RGB Protocol Associationは、2025年7月にBitfinex、Fulgur Ventures、Plan B Network、Kaleidoswap、Bitcoin Tribe、LNFIが設立したスイスの非営利団体です。Associationはメインネットで動いているのはバージョン0.11.1だと述べ、バージョン0.12は未完成の書き直しでライトニングのテストが無効になっていると説明しています(v0.11.1 vs v0.12)。Associationのライブラリは、2026年9月16日にリリース候補の表記を外しました(core libraries)。
もう一方のグループRGB-WGは、LNP/BP Standards Associationとつながりがあります。RGB-WGはバージョン0.12を公開し、発行体にメインネットで使えると伝えて2025年夏に製品が出ると見込んでいました(v0.12 consensus)。RGB-WGはバージョン0.11.1を、ルール変更がセキュリティに影響する無許可のフォークだと説明しています(on the fork)。
こうした主張には外部から確認できるものとできないものがあります。メインネットで動いているバージョンと更新を受けているバージョンは観察でき、どちらの点でも現時点の証拠はAssociationのバージョンを支持しています。どちらのバージョンが安全かは独立した監査なしには判断できません。実際にはウォレットがRGBに対応しているかを確認したい事業者は、まず2つのバージョンのどちらを使っているのかを尋ねる必要があります。
Tetherは両方のプロトコルを支援している
Tetherは2025年1月にTaproot Assets上のUSDTを発表しました(Tether)。2025年8月には「近い将来」RGB上でUSDTを発行する計画も発表しました(announcement via PR Newswire)。このプレスリリースはRGB Protocol Associationが配信したもので、メインネットの準備ができているバージョンとしてAssociationのバージョンである0.11.1を挙げています。
RGBの道筋はUtexoを通ります。UtexoはTetherが主導して資金調達を行った企業です。2026年10月、Utexoはビットコインのテストネット上でRGB上のUSDTのテスト版を取引所やウォレットに公開しました。このトークンはUSDTをブリッジしたものです。利用者はTetherが発行するUSDTを、EthereumベースのネットワークであるArbitrumにロックします。すると、Amazon Web Servicesの隔離されたエンクレーブで動く1台の署名サーバーが同額のトークンをRGB上に作ります。償還するときは利用者がRGBのトークンを破棄し、別々の署名サーバーのグループが合意して初めてロックされたUSDTが解放されます(Utexo Mint)。Utexoのノードソフトウェアは、RGB Protocol Associationのコードの系統の上に作られています。Utexoは2026年11月28日の一般公開と、2027年第1四半期のライトニング対応を計画しています(Utexo)。これらは企業の目標であり、それ以前の2026年7月と10月の目標は達成されていません。TetherのウォレットSDKにはUtexoが保守するRGBモジュールが含まれていますが、ライトニングモジュールはまだベータ版の表記です(RGB Lightning module)。
したがって、発行体は2つのプロトコルのどちらかを選んだわけではありません。片方にはUSDTを載せ、もう片方ではブリッジ版を支援しています。
5. なぜ公開データではこの活動が見えないのか
アセットの数は利用ではなく発行を測っている
よく引用される数字はこれらのトークンがどれだけ使われているかを測っていません。Lightning Labsのデフォルトのuniverseサーバーには、187,493件のアセット発行が載っています。しかし、大半は1点もののコレクティブルや.btcドメイン名です。リストに含まれるのもそのサーバーに同期されたアセットだけです。RGBMapのレジストリにはメインネット上のアセットが2つ載っていますが、発行体が登録を選んだアセットしか数えていません。どちらの数字も決済量を示すものではありません。
ライトニングでのUSDTについて、公表された数字は存在しない
ライトニングでのUSDTの供給量や決済量を公表している情報源はありません。比較として、Forbesは2026年3月時点でTron単体のUSDTが839億ドルだと報じました(Forbes)。ライトニング上の額はそれに比べて非常に小さい可能性が高く、長い期間動いてきたはずもありません。Tetherが統合を発表したのは2025年1月30日で、Forbesは完了を2026年3月21日としています。14か月後です。したがって、「2025年初めからライトニングでUSDT」という説明は完了ではなく発表の時点から数えたものです。
ウォレットが実際に提供しているもの
どのウォレットがドル残高を提供し、どう扱っているかは観察できます。下の表は広く使われているライトニングウォレットのうち、ドル残高を提供しているものを2026年11月初旬時点の各社自身のドキュメントに基づいて並べたものです。
| ウォレット | ドル残高 | ライトニング上を動くもの |
|---|---|---|
| Speed Wallet | USDT-L。SpeedがTaproot Assets上で発行する独自のラップドUSDTで、Speedが保有するEthereum上のUSDTが裏付け(Speed) | トークンそのもの(Taproot Assetsのチャネル上) |
| Wallet of Satoshi | Spark上のUSDB。発行体はBrale(disclosure) | ビットコイン。スワップ事業者のFlashnetが、USDBとビットコインを交換 |
| Strike | Strikeが利用者のために保有するUSDT残高(Strike FAQ) | ビットコイン。ドル残高はStrikeの口座内にとどまる |
| Blink | トークンではない合成ドル残高。取引所のデリバティブでヘッジされたビットコイン(Blink) | ビットコイン |
| AQUA | Liquid上のUSDT(AQUA v0.2.0) | ビットコイン。Liquidとの間で交換するスワップサービスを経由 |
| Tether Wallet | 他のブロックチェーン上のUSDT | ビットコインのみ(2026年6月のバージョン1.4時点)(Crypto Economy) |
これらのうち、ドルトークンをライトニング上で動かしているのは1つだけです。しかもTetherがTaproot Assets上で発行するUSDTではなく、Speed独自のラップドUSDTです。ほかの場合はドルが企業の口座の中か別のネットワーク上かヘッジの中にとどまり、ライトニングが運ぶのはビットコインです。これもライトニングのデータでドルの利用を測れない理由の1つです。ほとんどのウォレットではドルがチャネルに入ることがありません。
トークンのチャネルは設計上公開統計から隠れている
よりよいダッシュボードを作っても、この差は埋まりません。Taproot Assetsのチャネルは非公開なので、公開エクスプローラーが集めるゴシップデータには現れません。RGBのトークン記録はコミットメントトランザクションの中に保持され、チャネルが開いている間はブロードキャストされません。したがって、公開されているライトニングのキャパシティのチャートはすべて公開されたビットコインのチャネルだけを数えています。
本シリーズの前回の記事では、公開キャパシティがライトニングの流動性を測る信頼できる指標ではないことを論じました。

トークンのチャネルはさらに問題を加えます。利用者が公開されたビットコインのチャネルから非公開のトークンのチャネルに資金を移すと、全体の活動が増えていても公開統計では減少して見えます。2026年に起きたほかの2つの変化も同じ効果を持ちます。Core Lightningソフトウェアで標準で有効になったスプライシングは、新しいチャネルを開く代わりに既存のチャネルのサイズを変更します。LNDの新しいシンプルTaprootチャネルは、Taprootゴシップ仕様が確定するまで公開することが一切できません。
公開キャパシティは2025年12月のピークから2026年8月30日までの間に、約36%減少しました。この期間にはUSDT統合の完了が報じられた時期が含まれています。この2つの事実が関係しているかどうかは現在の公開データでは検証できない仮説です。
6. 各選択肢は何を信頼するよう求めるのか
下の表はここまでの章をまとめたものです。各選択肢の支払いの依存先、協力が止まったときに起きること、受け手に必要なものを示しています。
| 選択肢 | 支払いが依存するもの | その相手が協力をやめたとき | 受け手に必要なもの |
|---|---|---|---|
| Taproot Assets | ドルとビットコインの両方を持つエッジノードと、Lightning Labsのソフトウェア(唯一の実装) | 保有者は通常のライトニングインボイスに支払えなくなり、証明記録をバックアップや別のuniverseサーバーから復元する必要がある | 最後のホップでエッジノードが支払いを交換する場合は、任意のライトニングウォレット |
| RGB | 経路上のすべてのノード(すべて同じRGBバージョンを動かしていること)。USDTの場合は、Utexoのブリッジも | 支払いを経路で送れず、フォールバック先の交換もない | 送り手と同じRGBバージョンを動かすウォレット |
| Spark | Sparkの運営者と、USDBを交換する事業者(Sparkによる) | Spark自身の退出設計による。本記事では独自に評価していない | Sparkウォレット、またはエッジでの交換を経由した任意のライトニングウォレット(Sparkによる) |
| Liquid | 裏付けのビットコインを保有し、ブロックに署名する企業連合 | サイドチェーンが取引の処理を止める | Liquidウォレット |
どの設計も信頼する相手をなくしてはいません。置き場所が違うだけです。Taproot Assetsはエッジノードと1社のソフトウェアを通して、ライトニング全体に届きます。RGBはエッジノードをなくしますが、経路上のすべてのノードが同じバージョンを動かす必要があります。しかも、どのバージョンかについて開発者の意見が分かれています。SparkとLiquidは名前の挙がる運営者や企業連合により強く依存します。
発行体はすべての選択肢の上にいる
どの選択肢にも当てはまり、プロトコルとは無関係な依存が1つあります。ステーブルコインは発行体に対する請求権です。
プロトコルが2つのバージョンに分裂した場合、どちらのバージョンのトークンを引き続き償還するかは発行体が決めます。ビットコインの保有者は両方の側でコインを持ち続けますが、ステーブルコインの保有者が持つのは発行体が認めたものだけです。発行体はいつでも残高を凍結することもできます。ブリッジされたトークンにはもう1つ当事者が加わります。ロックされた担保を保有するブリッジです。Utexoの設計ではアセットが拒否するコインのリストを指定することもできます。リストに載ったコインの子孫にあたるトークンはRGBウォレット間では動かせますが、ブリッジは償還を拒みます。支配の場所がウォレットから出口に移ります。
守屋 彰眞は2026年6月にビットコイン研究所のためにこの論点を述べました。ステーブルコインは日本の輸出企業に決済の主権を与えません。TetherとCircleは資金を凍結できるからです。本記事で説明したプロトコルはどれもこれを変えません。決まるのはドルがどう動くかであって、誰が支配するかではありません。

ライトニング上のステーブルコイン決済を検討する事業者にとって有益な問いは、どのプロトコルが最良かではありません。それぞれの支払いが誰の協力を必要とするか。その相手が協力をやめたとき、利用者は何を失うか。そして、ブロックチェーンが代わりに保管してくれないトークンの記録を事業者自身が保管できるか。この3つです。答えは現時点では選択肢ごとに違い、どの選択肢が実際に使われ始めているかを示すはずの公開データはまだ存在しません。
出典: Forbes, 2026年3月31日(ステーブルコインの取引量、USDTの規模、Tron上のUSDT、2026年3月21日の完了日); Tether, 2025年1月30日(Taproot Assets発表); Tether RGB plan, 2025年8月28日(RGB上のUSDT、RGB Protocol Associationが配信); Utexo, 2026年10月22日(ブリッジされたUSDTのテスト、11月28日の公開、2027年初頭のライトニング対応); Utexo Mintドキュメント(ロック&ミントの設計、署名エンクレーブ、拒否リスト); Lightning Labs, Taproot Assets v0.8(現行リリース); Taproot Assets install guide(アルファ版の警告); Edge nodes and RFQ(エッジでの交換); Universes(証明の保存); taproot-assets safety.md(シードフレーズだけでは不十分); RGB and client-side validation(2020年のビットコイン研究所による解説); How TARO differs from Counterparty and Omni(無料オプションの弱点、2022年4月); Programming on Bitcoin(設計の一群としてのクライアントサイド検証); What is RGB(シングルユースシール); RGB Lightning roadmap(コミットメントトランザクション、ダストリミット); RGB v0.11.1 vs v0.12 and core libraries update(Associationの説明); RGB v0.12 consensus and on the fork, 2025年7月18日(RGB-WGの説明); Tether WDK RGB wallet and RGB Lightning module(Utexoが保守するモジュール、ベータ版のライトニングウォレット、シードではトークンデータを復元できない); Spark, stablecoins on Bitcoin(USDBとエッジでの交換についてのSparkの説明); Oshikawa, Spark protocol guide(Sparkの仕組み、2026年6月); Speed, USDT on Lightning(USDT-Lの設計と裏付け); Wallet of Satoshi disclosure v1.23(USDB、Brale、Flashnet); Strike FAQ(USDT残高); Blink Stablesats(合成ドル); AQUA v0.2.0(Liquid上のUSDT); Crypto Economy, Tether Wallet 1.4(ライトニングはビットコインのみ); Lightning Terminal universe(発行件数); RGBMap(レジストリの件数); mempool.space Lightning statistics(キャパシティのピークは2025年12月28日、2026年8月30日に3,754 BTC、2026年11月5日時点で公表されている最新の時点); taproot gossip(Taprootチャネルが非公開のままである理由); Lightning capacity is not liquidity(前回の記事); Moriya, payment sovereignty(発行体による凍結の論点、2026年6月)。
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