今回は技術ネタというよりはこの1週間で立て続けに報道された「テキサス州でのマイニング事業」についてです。自分は高校生の頃から地理学にはかなり力を入れていたので、マイニング事業のロケーション選定とかにはかなり興味があります。(マイニング事業自体にはそこまで興味はないのですが)

今日触れたいのはピーター・ティールの出資を受けてテキサス州でマイニング事業を企画しているLayer1と、同州に大規模なマイニング施設を建設しようとするBitmainの計画がなぜテキサスに的を絞っているのかについてです。

Layer1とは

昨年12月に一度ニュースに登場した時点では、Layer1はピーター・ティールやDCG(Digital Currency Group)に210万ドルのシード投資を受けたアクティビストファンドでした。長期的に期待できる仮想通貨の保有だけでなく、開発にリソースを投入するという作戦で、GRINなどに関わっていたようです。しかし今回のシリーズAで5000万ドルの追加出資を受ける頃には、マイニング関連事業を全て行う、という内容にピボットしました。テキサス州の安い電力を用いてビットコインをマイニングするのみならず、独自のASICを開発することによってASICの安定供給を確保し、自前の変電所まで建設するつもりのようです。いわゆる垂直統合ですね。

Bitmainのテキサス州進出

昨年夏ごろからBitmainがテキサス州に5億ドル規模の施設を建設する計画がありました。そちらも、Layer1のニュースを受けて注目を浴びています。Bitmainが昨年夏に設置予定池のRockdaleという田舎町で話した当初の計画によると、施設は500MW級と超巨大で、325,000台のASICマイナーをRockdaleという田舎町に置き、雇用を400~600人程度確保する、というものでした。昨年冬にはビットコイン価格下落と業績悪化によりテキサスでは従業員3人を残して全員解雇するなどプロジェクト継続が危うい状態でしたが、先日再び発表された縮小版の計画は当初25MW、順次50MW、将来的には300MWも視野に、というものになっていました。

現時点では職員は50名以下だそうです。この施設は、この街に半世紀ほどの間あったAlcoaというアルミニウム工場の跡地を利用しています。アルミニウム工場は大量の電力を使うため、電力インフラが既に整っていることと、併設されていた発電所の冷却池をASICの冷却に転用できることがコスト削減に繋がるからです。余談ですが、Bitmainは中国ではマイニング以外にAIの機械学習向けのデータセンターも運営しているので、ビットコイン一辺倒のリスクを低減するために米国でもそちらに多角化することを視野に入れているかもしれません。

テキサスの特徴

テキサス州の電力供給量は2位の州に大きな差をつけて米国でナンバーワンです。また、業務用電力はアメリカの50州のうち、4番目に安く、1kWhあたり4セント台から契約できます。これは日本の4分の1で、マイニングが盛んな中国と同じレベルです。

電力価格がこれだけ安いことには理由があります。まず、テキサス州では石油や天然ガスが産出されます。アメリカは現在石油および天然ガスの両方で世界一の産油国ですが、米国の生産量のうちそれぞれ25%と40%が同州産です。エネルギーの調達コストが低いこと以外にも、送電網の都合で州外への送電が難しく、電力価格競争が激しいことも低価格に貢献しています。Layer1の発表には自然エネルギーも活用して電力コストを下げるとありました。テキサス州の今年の発電量の内訳は天然ガス52.4%、風力23.4%、石炭火力15.9%、原子力5.4%、ソーラー2.1%、その他0.9%で、去年の消費量内訳と比較すると風力とソーラーの成長が実感できます。


自然エネルギーは気まぐれに発生するものなので売れ残りやすいですが、Layer1は自前の変電所を活用して余っているときのみ安値で買う契約をするのでしょうか。一方でBitmainは普通に定期契約で業務用電力を買うようなので、Layer1の言う自然エネルギー云々は「マイニングは環境に悪い」と思う投資家への対策用のアピールなのかもしれません。北米では他に水力発電が盛んでやはり産油国でもあるカナダにたくさんのマイナーが集まっています。

ただし、カナダと違ってテキサス州は暑いので、ASICの冷却が課題となります。Bitmainの場合は水冷方式を取り入れるようですが、Layer1も冷却効率を高めることに苦労すると考えられます。

石油産業

自然エネルギーが余ってしまうことがあるのと同様に、天然ガスは石油採掘の副産物としても出ます。その場合保管や輸送が困難なので多くの場合プラントの発電に利用されるか、燃やされます。油田の柱のてっぺんで燃やされているのはこの天然ガスです。これをマイニングに利用しようというアイデアも検討されています。

また、佐々木さんも何度か記事や動画で解説してくださっているビットコインのマイニングと石油産業との構造的な類似によって、マイニング事業がテキサス州で理解を得やすいことも後押ししていると言う人もいます。2つの業界の関わりでいえば、2014年に石油開発に関してビットコインで出資を募ったテキサス州の会社がテキサス州証券委員会に注意されています。

おわりに

にわかにテキサス州がマイニングの新天地として注目を集めていますが、冷却問題を解決できれば電力の安さから人気のマイニング地域となる可能性があると思います。個人的には単純にスケールメリットと安価な電力を活用する超大規模な施設よりも、油田や発電所など、局所で余った電力・エネルギーをビットコインに変えるようなマイニングが普及してほしいなと思います。いずれにせよ、マイニングの地理的な分散が進むといいなと思います。