LN送金する際に少し煩雑だなと感じたことはありませんか。

自分が送金する場合、以下の工程が必要です。

  1. インボイス(請求書)を要求する
  2. インボイスをコピーする
  3. ウォレットを開きインボイスをコピペまたはQRコードの読み取り
  4. 送金ボタン(Send)を押す
  5. 送金が完了したかをウォレットや送金先のサイトなどで確認する

Lightning Networkはオンチェーン送金と比べると送金速度や手数料の面での利便性は向上していますが、決済体験として支払先のサイトやアプリから「ウォレットを開きなおす」のは少し面倒です。

本稿ではNWC(Nostr Wallet Connect)という、アプリ上でウォレットにシームレスに接続を行い送金を可能にするプロトコル概要と活用事例5選を紹介します。NWCを用いることで月額課金をビットコインで実現することも可能になります。

NWC(Nostr Wallet Connect)とは

NWC(Nostr Wallet Connect)は、NIP-47で定義されたオープンソースプロトコルで、アプリがウォレットと接続(connect)するための通信方法を定めたものです。

NWCを用いることでLN送金時にウォレットに遷移(新たに起動)せずともアプリ上で決済が可能になります。これは、Lightningウォレットとアプリを繋ぐ「USB-C」と比喩され、ユーザー体験の向上だけでなくアプリ開発者はウォレットの開発をする必要がなくなり、アプリ開発に専念することができます。

Nostr Wallet Connect
An open protocol to connect bitcoin wallets to apps

NWCの名前の通りNostrと呼ばれるオープンソースの基盤技術が用いられていますが、ユーザーはNostrの技術的な知識がなくともNWCを利用することが可能です。

💡
Nostrを知らない方のために簡単に補足しておきます。Nostrとは「Notes and Other Stuff Transmitted over Relays」の略でRelayと呼ばれるサーバーを介して手紙やその他いろいろを通信するプロトコルです。このプロトコルを用いることで中央管理者のいないSNSなどを作ることが可能になります。

Nostrを詳しく知りたい方は以下の過去記事をご参照ください。

分散SNSとしてのNostr
要旨 ・Nostrの分散性の源泉はクライアントが複数のリレーに接続できる仕組みと、プロトコル自体がオープンソースなため誰でもクライアントやリレーを作れることにある。 ・ライトニングネットワークの統合によって既存の決済手段の統合ではシームレスに実現することが難しかったグローバルな投げ銭が実現されており、ライトニングネットワークとのシナジーが大きい。 ・分散SNSとしての強みはオープンソースのプロトコルのシンプルさから開発者が参入しやすいところにあるが、冗長性(おもに通信量)と分散性がトレードオフの関係にあるため分散性が犠牲にされやすいという弱点もある。 ・現時点では通信量やスパムに起因するUXの問題を改善する有料リレーやフィルター機能などがNostrに関連したビジネスとして成り立っている模様である。 本稿で初めてNostrを紹介したのは昨年12月のこと。Twitterから競合として名指しされてから、ユーザー数が一気に数百人程度から数万~数十万人へと拡大したタイミングでした。 その後も順調に利用者が定着しており、最近ではDamusというクライアントアプリがライトニン

NWCのワークフロー

NWCを用いることでLNの送金がどのような流れで行われるのかを見ていきましょう。

NWCの概要

NWCのセットアップ:ウォレットが生成したQRコードをアプリで読み取る or 手動で接続情報を設定する

② ウォレットがアプリへの接続の承認を行う

インボイスの送信:暗号化された支払いリクエストをアプリが作成してNostrのRelayに送信する

④ Relayが支払いリクエストをウォレットへ転送する

ペイメント:ウォレットは暗号の復号化を行い、検証を行ったのち支払いを実行する

アプリとウォレットの接続(NWC)は最初の一度限りです。設定をしてしまえば予算の範囲はアプリ上でストレスなくLN送金をできます。

NWCの主要な3つの機能や特徴

ここからはよりNWCを理解する上で知っておくべき機能や特徴を3つ紹介します。

① ウォレットを問わず統一されたUI

まず1つ目はアプリ内でLNを扱うために一貫したコマンドセットがNWCプロトコルに提供されているため、ウォレットの実装に合わせてアプリを作る必要がないことです。つまり、ユーザーからするとカストディアル、ノンカストディアル、自身のLNノードにしても一貫したUIでアプリ上からウォレットを操作することが可能です。(ウォレットがNWCに対応していることが前提)

② ノンカストディアルなセキュリティ設計

2つ目はノンカストディアルなアプリのセキュリティ設計であることです。UXとしてはアプリ上でLNを扱い送受金をしていますが、あくまであなた自身のウォレットにビットコインが存在しており、アプリが不正を行ったりハッキングされてもビットコインを失うリスクはありません。

③ 用途ごとの支払い上限設定

3つ目は口座を支払い目的ごとに分けて予算を決める様に、ビットコインの支払い額に上限設定を用途ごとに持たせることが可能です。自動決済などを行う際に想定以上に浪費することを防ぐ安全策として機能します。

NWCの活用事例5選

NWC Ecosystem Map

さて、実際のNWCのユースケースとしてはどのようなものがあるのでしょうか。上記の画像は、NWCに対応したサービスが図としてまとめられているため、実際に使う際の参考にしてみてください。本稿では5つの活用例をピックアップして紹介していきます。

その1:投げ銭

Primal/jack dorsey

Nostrには「Zap」と呼ばれる独自の文化が存在します。これは従来のSNSにおける「いいね」の代わりにビットコイン送金で置き換えたものです。ZapはNIP-57で定義されており、ユーザーはビットコインを使って投稿者にチップを送ったり、価値あるコンテンツに報いたり、リアルタイムでサービス料を払ったりすることができます。

いいねの代わりにビットコインと聞くと少し違和感を覚えるかもしれませんが、Zapが画期的な点としては1sats(1BTCの1憶分の1単位)からでも気軽に送ることができるという事です。PayPalやクレジットカードは手数料の関係でマイクロペイメントには向きませんがZapは即座に少額送ることが可能です。

Nostr版SNSとしてIOSでは「Damus」、Androidでは「Amethyst」というアプリで利用することが可能なのでぜひ以下のリンクからNostrの世界へ足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。

Damus
A new social network that you control
Amethyst - Nostr Client for Android
Join the social network you control. The most feature-rich Nostr client for Android.

その2:マーケットプレイス

BTCPay Server

Uberやフリマアプリの様な従来のマーケットプレイス型サービスは、ユーザー同士の取引を仲介してその一部を手数料として受け取るビジネスモデルです。しかし主体ごとに大きな負担が伴います。

具体的には

  • 売り手の負担:決済代行業者への高額な手数料、入金遅延、チャージバックリスク
  • 運営者の負担:決済代行との契約・統合・運用、資金を一時預かることによる規制対応
  • 買い手の負担:国際決済時の手数料、決済情報の漏洩リスク

などが挙げられます。

主要な特徴でも挙げましたがNWCは「ノンカストディアル(資金を預からない)」アーキテクチャを実現しています。ユーザーの資金を預かる必要を排除し、ウォレットがお金を扱い、アプリは単にアクションを安全に実行するだけという設計です。決済が成立した瞬間、運営者は事前にユーザーから許可された権限の範囲内で自分の取り分(手数料)を買い手のウォレットから自動で引き落とすことができます。

NWCの仕組みにより以下の様なメリットがあります。

  • 売り手のメリット:即時着金、チャージバック不可、クレカ手数料のコスト削減
  • 運営者のメリット:資金を預からないため規制対応の軽減(※管轄ごとに要確認)
  • 買い手のメリット:クレカ情報を渡す必要がない、国境を越えた支払いが瞬時

なお、ECサイトに既存の決済システムとしてNWCを組み込みたい場合は、「BTCPay Server」のNostrプラグインがNIP47(NWC)に対応しており、自社のLightningウォレットで直接受け取りが可能です。

その3:サブスク

IndeeHub

明確な予算上限(budget)を設定することで、ユーザーはアプリに対してウォレットへの制限付きアクセス権限を付与できます。この権限を使って、アプリはユーザーのウォレットから月次などの定期的な引き落としをリクエストできる、つまり「サブスクリプション課金」が成立します。

ビットコインは「支払い手による送金(プッシュ型)」が基本のため、従来はサブスクのようなプル型決済との相性が悪いとされてきました。NWCはこの課題を、ユーザー側で金額・頻度の上限を設定できる権限委譲の仕組みによって解決しています。

実際に、映像配信プラットフォームのIndeeHub StudioなどがNWCを活用したビットコインでのサブスクを展開しています。

その4:AIエージェント

Alby/Payments for Your AI Agent

従来の決済システムはAIには使えません。クレジットカードや銀行口座は「身分証を持つ人間」を前提に設計されており、AIエージェントには身元・銀行口座・法的地位がないのが理由に挙げられます。それに対しビットコインのパーミッションレスな設計とLightningの速度は、自律ソフトウェアにとって実用的な唯一の決済レイヤーとなり得ます。

ここでNWCとMCPを組み合わせた場合を考えてみましょう。

MCP(Model Context Protocol):ClaudeをはじめとするLLMに外部ツールを安全に統合する標準プロトコル

両者をつなぐ「Alby MCP Server」を経由することで、Claude、Cursor、n8nといったAIツールが自律的に送金・受取・取引照会を実行できるようになります。

参考としてAIエージェントがどの通貨を選ぶかを考察した過去記事がありますので合わせてご覧ください。

自律型AIはどの通貨を選ぶのか?AIの貨幣条件とビットコインの可能性
自律型AIはどの通貨を選ぶのか。利用条件と性能条件からAIに適した貨幣の要件を整理し、自己主権性の観点からビットコインの可能性を考察します。

その5:ゲーム報酬

Zappy Bird

ビットコインを活用したゲームには、これまで構造的な不便さがありました。LNでは支払いのたびにインボイスを発行・コピーし、ユーザーが1回ごとに手動で支払いを承認もしくは依頼する必要があります。またゲーム内では比較的少額の決済が多いため、送金の回数が多いことも難点です。

NWCはこれらの問題を解決しました。Bitcoin-Connect(NWC+WebLNを組み合わせた接続ライブラリ)を経由することでリアルタイムにビットコインを引き出し可能になります。インボイスの発行や支払いは裏側で自動処理され、その上少額での送金(1sats単位=1BTCの1憶分の1)が気づかないうちに行われるようになります。

例としてあなたは世界で流行したFlappy Birdというゲームをご存知でしょうか。鳥が羽ばたきながら土管の隙間を潜り抜けるというシンプルな構造のゲームです。実はこれを改造して「Zappy Bird」というゲームがリリースされています。1回ジャンプするごとに1sats支払うPay-to-Playモデルですが最高得点を出したプレイヤーが蓄積された他プレイヤーのビットコインを全て受け取れるそうです。操作性が慣れるまで難しいのでFlappy-Birdで練習を行い、腕に自信のある方のみプレイすることをおすすめします。

Zappy Bird
Zappy Bird is an arcade-style game in which the player controls the bird Faby, which moves persistently to the right. The player is tasked with navigating Faby through pairs of pipes that have equally sized gaps placed at random heights.

まとめ:NWCはLightningウォレットとアプリをつなぐ

NWC(Nostr Wallet Connect)は、Lightningウォレットとアプリをつなぐ「USB-C」のような役割を果たすプロトコルです。一度設定するだけで、アプリを切り替えることなくシームレスなLN送金が実現できます。

主な特徴として、ウォレットの実装に依存しないUI、アプリ上はノンカストディアルな設計、そして用途ごとの予算上限設定が挙げられます。

活用例としては、投げ銭(Zap)・マーケットプレイス・サブスク・AIエージェント・ゲーム報酬と、多岐にわたります。特にサブスクやAIエージェントへの応用は、「プッシュ型決済しかできない」「人間を前提とした決済システム」というビットコインの従来の限界を打ち破るものです。

NWCはまだ発展途上のプロトコルですが、対応サービスは着実に増えており、ビットコインを日常的な決済手段として使う上での大きな一歩となるかもしれません。