Bitcoin Pizza Dayとは?世界初のビットコイン決済の歴史と意義
今日から16年前の2010年5月22日、Laszlo Hanyecz(ラズロ・ハニエツ)というプログラマーがビットコインで2枚のピザを購入したことをご存知でしょうか。
その金額なんと10,000BTC。
この出来事は世界初のビットコイン決済として歴史に刻まれ、毎年5月22日は「Bitcoin Pizza Day(ビットコインピザデー)」として世界中で祝われています。皆さんの中にはこの日にピザを食べられる方も多いかと思われます。
後にラズロ氏は運命の日(5/22)から約1年間で100,000BTCほど使ったと語っており、ピザ取引やビットコイン配り(当時の慣習)に使用したとされています。
本稿ではいかにしてラズロ氏がピザを購入したのか。その経緯と意義について解説しまとめます。
また、番外編としてピザの偉業の裏に隠され、あまり知られていないラズロ氏の2つの功績についても解説していきます。
フォーラムへの投稿とピザの購入「Pizza for bitcoins?」
2010年5月18日、「Bitcointalk」と呼ばれるサトシナカモトが開設したフォーラムにて一つのスレッドが立った。そのタイトルは「Pizza for bitcoins?」。
ビットコインを用いてピザを買えないかという投稿です。具体的にどのようなものだったのか見ていきましょう。

ピザ2枚と引き換えに10,000ビットコインを支払います。たとえば大きいのを2枚。翌日に食べる分が残るくらいがいいです。残り物のピザを後でつまむのが好きなので。 ピザは自分で作って家まで持ってきてもいいし、デリバリーを注文してくれてもいい。要するに、自分で注文したり準備したりしなくても食べ物が届く、という形にしたいんです。ちょうどホテルで「朝食プレート」を頼むみたいに、何か食べるものを持ってきてもらえれば満足です!
トッピングはタマネギ、ピーマン、ソーセージ、マッシュルーム、トマト、ペパロニなど、普通のもので。変な魚のトッピングとかはナシで。チーズだけのシンプルなピザも好きです。そっちのほうが安く作れるかもしれませんし。 もし興味があればお知らせください。取引の詳細を詰めましょう。
よろしくお願いします
ラズロ
この投稿に対して5人ほどのユーザーがフォーラムにて反応をしており、「住んでいる国はどこ?」や「ヨーロッパからの支払い方法がわかれば、ドミノピザを奢るよ」という会話がされています。
当時の空気感とビットコインの価値
当時の空気感として私自身が注目した投稿をご紹介します。投稿主はender_xというユーザーです。

かなりの量ですね。今ならhttps://www.bitcoinmarket.com/ で41ドルで売れますよ。タダでピザをもらえるといいですね。
(ender_x)
リンク先は「ビットコインマーケット」というサイトで当時はPayPalを通じて米ドルとビットコインを取引することができました。(PayPalを用いた詐欺が多発したため、PayPal利用を停止し、その後まもなくサービスが終了しています)
この投稿で興味深いのは次の二点です。一つは、ピザ2枚に対して10,000BTC=41ドルという具体的な値付けがなされており、現代の私たちに当時のビットコインの価値を生々しく伝える貴重な記録であること。
もう一つは、投稿者(ender_x)自身が「ピザがタダで手に入る」という感覚でいたように読めることで、当時はビットコインをお金として使うという発想がまだなかった空気感が伝わってきます。
なぜラズロ氏はビットコインを使おうとしたのか
もう一つ興味深い会話があるのでご紹介します。BitcoinFXというユーザーとラズロ氏のやり取りです。

ラズロ、ピザを奢りたいけど私はアメリカ在住じゃないから、いたずら電話と思われそう。他に申し出がなければ、オンラインで買う方法を調べてみるよ。お腹が空いているの?それともただピザが好きなだけ?😄 (BitcoinFX)
「ビットコインでピザを買った」と言えたら面白いなと思っただけです😊 (ラズロ氏)
ラズロ氏はビットコインを決済手段として使いたいという好奇心でピザを購入したことがわかります。
私自身ビットコインは決済手段(貨幣)としての面が本質であると考えており、ラズロ氏のピザ購入はビットコインを決済手段として普及していくための重要なマイルストーンであったと思います。
後日談ですがラズロ氏はこの時の購入に対して「後悔していない」と語っています。(詳しくは後ほど触れます)
ビットコインでピザを購入
最初の投稿から4日後の2010年5月22日、ラズロ氏はピザの購入が成功したことをフォーラムにて明かしました。

10,000ビットコインをピザと交換することに成功したと報告します。
写真はこちら:
http://heliacal.net/~solar/bitcoin/pizza/(このリンクの写真は現在見れませんがネットで検索したら出てきます)
jercos、ありがとう!
当時のトランザクションと考えられる履歴はmempool.spaceというサイトにて見ることができます。

初めてこのトランザクションの画面を見られる方もいらっしゃると思うので簡単に見方を解説します。
左側は送り元(ラズロ氏)のアドレスとビットコインの残高が示されており、それらを用いて右側の送り先(jercos)のアドレスへ10,000BTCを送金したという感じです。
このトランザクションが確実にピザ購入の取引であるとは断定できないものの、金額が10,000BTCと一致している点と取引の時刻(2010-05-22 18:16)がフォーラムに購入を成功したと投稿している時間(2010-05-22 19:17)に近しいことからほぼ間違いないと考えています。
10,000BTCを受け取った謎の人物「jercos」について
ビットコインを用いてピザを購入したラズロ氏に焦点が当てられがちですが、ビットコインを受け取った謎の人物「jercos」も称賛されるべきではないでしょうか。
本名は「Jeremy Sturdivant(ジェレミー・スタディヴァント)」として知られ、当時19歳のビットコイン愛好家であったジェレミー氏はBitcointalkのラズロ氏の呼びかけに応え、IRC(インターネットリレーチャット)を用いて取引を行ったとされています。
ラズロ氏がビットコインを決済手段としての可能性を見出そうとしたのに対し、ジェレミー氏は成長するビットコインの実験への良い機会だと捉えていたそうです。
後にジェレミー氏はインタビューにて、「受け取ったビットコインは旅行や個人的な費用に使ったが後悔はしていない」と語っています。
「Bitcoin Pizza Day」という名称の発祥とその意義
フォーラムの履歴を追っていくと次のような投稿を見つけました。

"What do we call it, Bitcoin Pizza Day? Laszlo's Pizza Day?"
(「なんて呼ぼうか、Bitcoin Pizza Day?それともLaszlo's Pizza Day?」)
2012年10月28日、mc_lovinというユーザーが投稿した一文こそが、「Bitcoin Pizza Day」という名称の発祥だと筆者は考えています。
ラズロ氏のビットコインを用いたピザ購入の意義とは
ラズロ氏がビットコインを用いてピザを購入したことで社会に与える影響や価値とは何だったのでしょうか。
私自身の考えになりますが、まず一つ目は「ビットコイン決済のマイルストーン」であることです。ビットコインを用いた決済が行われる以前は、開発者や愛好家の間で送金するだけで実際の商品と交換するという事は行われませんでした。
サトシ自身はビットコインの事を「the P2P cryptocurrency」と表現しており、コード上のデータが初めて「貨幣」として機能した瞬間とも言えます。
逆に、ピザ購入の出来事がなければビットコインが決済として使われず、現在のような価値がなかった可能性もあるのかもしれません。ラズロ氏のピザ購入は、新技術の最初期にコミュニティが積極的に動くことの重要性を示す一例とも言えます。
また、ラズロ氏にとっては当時は41ドルの価値のビットコインを持っておくより、使うことで人々に配ることを目的にしたのかもしれません。ある研究によると2010年5月のラズロ氏のビットコインアドレスを調べたところ、最高で20,962BTCを所有していることがわかりました。そして、ピザで送金したビットコインを手に入れるのにマイニングを1週間行うのみで取り戻せる勢いだったそうです。
もう一つは「サトシナカモトへの贖罪とビットコインへの貢献」だと考えられます。こちらはラズロ氏がGPUを用いたマイニングを行うことでサトシのプロジェクトを破壊してしまったという気持ちからピザ取引の継続とビットコインへの貢献を目的にしていたのではないかという仮説です。詳しくは次の章にて説明します。
本章の最後に2019年にBitcoin Magazineにて行われたラズロ氏のインタビューを一部載せておきます。
「取引が成立するのは、双方が良い取引だと思うからです。私はインターネットに勝ったと感じていました。無料の食べ物をもらえた。『GPUを連結して、倍の速さでマイニングできるようになった。これで食べ物に困らない、永遠に食費がかからない』と思っていました……つまり、このプログラムを作ってビットコインをマイニングして、あの日は本当にインターネットで勝ったと感じていた。オープンソースプロジェクトへの貢献でピザをもらえたんです。普通、趣味は時間とお金を食いつぶすものですが、この場合は趣味が夕食を買ってくれた」
番外編:Laszlo Hanyecz(ラズロ・ハニエツ)の隠された2つの功績とは
ラズロ氏にはピザ取引という偉業に注目が集まりあまり知られていませんが、ビットコインの発展にとって大きな功績が存在するので紹介します。
その1:MacOSでもビットコインソフトウェアを稼働可能にした

サトシはもともとビットコインをWindowsとLinux向けにコーディングをしていたため、MacOSでビットコイン・コア(ビットコインネットワークを支えるノード向けの、最初で今もなお主流のソフトウェア実装)を動かすことはできませんでした。
上記の2010年5月10日のラズロ氏の投稿によりMacOSでもソフトウェアを動かせるようになったことはビットコインにとって大きな貢献であり、その後に続くMacOSに対応するビットコインのアプリやウォレットの礎となったことは重要な事実です。
その2:GPUでのマイニングが可能なことを発見
2010年当時のマイナーはCPUを用いてマイニングを行うことが主流でした。

ラズロ氏はコンピュータのグラフィックカード(GPU)を用いてビットコインをマイニングできることを発見し、2010年5月10日にフォーラムに投稿しています。GPUはマイニングにおいてCPUより桁違いに高性能だったため、サトシの予想をはるかに上回るペースでビットコインマイニングを加速させました。
その後、ビットコインでの最初のデジタルゴールドラッシュが訪れ、2010年の終わりまでにハッシュレートは130,000%増加しています。マイニング難易度の上昇によりマイナーらは小規模なマイニングファームを地下室、ガレージ、屋根裏などに作り始めたそうです。これらのセットアップが大規模産業型マイニングファームの原型になったと言われています。

GPUマイニングに対するサトシからのメール
GPUマイニングを広めていたラズロ氏はある日、サトシナカモトからメールを受け取ったことが知られています。内容としては、「GPUマイニングに関する投稿を控えてほしい」というもので、サトシ自身いずれ人々がGPUマイニングをするのは分かっていたが「その日を早めたくない(I don't want to hasten that day)」と語ったそうです。
2009年1月3日にビットコインが登場してから1年4か月ほどしか経っていない当時、サトシはビットコインが適切にスケールすることを望んでおり、自身のハッシュレートを意図的に操作していたと考えられます。(公平にマイナーにコインが配られるようにするため)
新規マイナーはコンピュータさえあれば簡単にマイニングをしてビットコインを手に入れられる状況において、GPUは1つのリスクを秘めていました。それはGPUという高価な代物を持つマイナーのみがコインを独占してしまい、コインが一極化してしまうことでした。
以下サトシからラズロ氏へのメール全文です。
A big attraction to new users is that anyone with a computer can generate some free coins. When there are 5000 users, that incentive may fade, but for now it's still true. GPUs would prematurely limit the incentive to only those with high end GPU hardware. It's inevitable that GPU compute clusters will eventually hog all the generated coins, but I don't want to hasten that day. If the difficulty gets really high, that increases the value of each coin in a way since the supply becomes more limited. The supply is the same: 50 coins every 10 minutes. But GPUs are much less evenly distributed, so the generated coins only go towards rewarding 20% of the people for joining the network instead of 100%. I don't mean to sound like a socialist, I don't care if wealth is concentrated, but for now, we get more growth by giving that money to 100% of the people than giving it to 20%. Also, the longer we can delay the GPU arms race, the more mature the OpenCL libraries get, and the more people will have OpenCL compatible video cards. If we see from the difficulty factor that someone is using too much GPU, we can certainly pick this OpenCL stuff up again then. Maybe my effort to maintain GPU innocence is running out of time. It's worked out so far.
「新規ユーザーにとっての大きな魅力は、誰でもコンピューターさえあれば無料でコインを生成できることです。ユーザーが5,000人になれば、その魅力は薄れるかもしれませんが、今はまだそうです。GPUは、その恩恵を高性能なGPUハードウェアを持つ人だけに早急に限定してしまいます。GPU演算クラスターがいずれ生成されるコインを独占するようになることは避けられませんが、その日を早めたくはありません。難易度が本当に高くなれば、供給がより限定されるという意味でコインの価値が上がる面もあります。供給量は変わりません。10分ごとに50コインです。しかしGPUはCPUほど均等には普及していないため、生成されたコインはネットワークに参加した人の100%ではなく、20%にしか渡らないことになります。社会主義者のように聞こえたくはありませんし、富が集中することを気にしているわけでもありませんが、今の段階では100%の人々にその報酬を渡す方が、20%に渡すよりも成長を促せます。また、GPU競争を遅らせれば遅らせるほど、OpenCLライブラリが成熟し、OpenCL対応のビデオカードを持つ人が増えます。もし難易度係数から誰かがGPUを過度に使っていると判断されれば、その時点でOpenCL関連の取り組みを再開することもできます。GPUの無垢さを保とうとする私の努力は、時間切れになりつつあるかもしれません。今のところはうまくいっています。」
メールを受けとったラズロ氏はGPUマイニングの宣伝をやめたと語っています。2019年のBitcoin Magazineのインタビューによれば、ラズロ氏は「『あなた(サトシ)のプロジェクトを台無しにしてしまった気がする、ごめん』と思いましたね。CPUではブロックをマイニングできないからと、やる気をなくす人が出てくるかもしれないと、彼(サトシ)は心配していました」と語ったそうです。
このような出来事もあり、ラズロ氏はビットコインを使い続けることでサトシへの贖罪とビットコイン発展への貢献をしたのではないでしょうか。
まとめ:ピザ取引はビットコイン決済の大きな一歩
2010年5月22日、ラズロ・ハニエツが10,000BTCで2枚のピザを購入した出来事は、単なる「世界一高いピザ」のエピソードではありません。それは、コード上のデータでしかなかったビットコインが、初めて現実の商品と交換され「貨幣」として機能した瞬間であり、その後のビットコイン決済へとつながる決定的な一歩でした。
また、ラズロ氏の功績はピザ取引にとどまりません。MacOS版クライアントの公開によりビットコインを動かせる環境を広げ、GPUマイニングの発見によってネットワークの計算能力を飛躍的に押し上げました。一方で、GPUマイニングの普及がサトシの懸念を招いたという経緯は、彼自身がその後ビットコインを「使い続けること」にこだわった理由の一端を物語っているのかもしれません。
41ドル分のビットコインで買われた2枚のピザは、現在の価格に換算すれば天文学的な金額になります。しかし、ラズロ氏自身が「後悔していない」と語る通り、この取引がなければビットコインは決済手段としての一歩を踏み出せず、今日の価値も存在しなかった可能性があります。
毎年5月22日に世界中の人々がピザを囲むのは、単なる記念行事ではなく、新しい技術を「実際に使ってみる」というコミュニティの行動が未来を切り拓いたことへの祝福なのだと、筆者は考えています。今年のBitcoin Pizza Dayもぜひピザを片手に、16年前の小さな取引が持つ意味に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
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